
セックスレスが続き、「パートナーとの愛情が薄れているのではないか」「妊活をあきらめた方がよいのだろうか」などとお悩みの方もいるかもしれません。
性に関する悩みは他の人に打ち明けにくく、精神的な負担となることもあります。問題解消のためには、原因を理解し、二人で協力して取り組むことが重要です。
本記事では、セックスレスを引き起こす男女別・年代別の要因や解消法について解説します。ぜひ参考にしていただき、できる対策からはじめてみてください。
セックスレスになる主な要因
日本性科学会では、セックスレス・カップルについて「特殊な事情が認められていないにもかかわらず、カップルの合意した性交やセクシャル・コンタクトがいずれも1ヵ月以上なく、その後も長期に渡ることが予測される場合」1)と定義しています。
2023年のセックスに関する調査2)によると、婚姻関係の「6割以上がセックスレス」で、20年前の2倍に上ることが報告されています。
セックスレスは「忙しいから」の一言で片づけられる問題ではありません。心理的な壁、体力やホルモンの変化、出産や育児による生活リズムの乱れなど複数の要因が関係して起こります。性別ごとの主な要因を見ていきましょう。
男性側の要因
男性側の要因は主に、相手が応じてくれないこと、男性ホルモンの分泌低下などが挙げられます。
心理的な影響
男性側の要因のひとつには、パートナーに拒まれることでの心理的な影響が挙げられます。
セックスに誘っても拒まれると、自信がなくなったり、自己肯定感が低下したりします。「誘っても断られるのでは」と思い込み、誘う行動自体が減少してしまうのです。次第に、セックスレスが当たり前になってしまいます。
生活リズムの乱れ
不規則な勤務や睡眠不足は、セックスの頻度を減少させる要因のひとつです。男性ホルモンである「テストステロン」の分泌低下を招き、、性欲が低下します。
とくに深夜帰宅などが続くと、パートナーとすれ違いの生活になりやすいです。心身の疲労も重なり、セックスする意欲もなくなってしまいます。
家族化による性的欲求の低下
長年の関係からパートナーを肉親のように感じることも影響します。
情緒的な安心感が高まる一方、性的興奮を高める目新しさや緊張が薄れやすいです。「家族化」はドーパミンを刺激する非日常の不足につながり、欲求が低下しやすくなります。
環境・ホルモンバランスの変化
出産をきっかけに、なんとなくセックスから遠ざかるケースも少なくありません。子どもの世話で生活が一変し、セックスの時間をとりにくくなることや、父親になることでホルモンバランスが変化することが関係しています。
女性側の要因
セックスレスになる女性側の要因には、心理的な影響やホルモンバランスなどが挙げられます。それぞれ見ていきましょう。
心理的な影響
女性は性行為に至るまでの環境要因(部屋の散らかり、子どもの寝かしつけなど)が影響する場合があります。
準備が複雑に感じられるほど、セックスが「やらなければならないタスク」になり、欲求がしぼみがちです。
また、性交痛がある場合は、痛みに対する不安が生じ、拒んでしまうケースも少なくありません。
ホルモンバランスの変化
女性の体は一生を通じて、女性ホルモンの影響を受けます。女性ホルモンには「エストロゲン」と「プロゲステロン」があり、ライフステージによってバランスは変化します。二つのホルモンは、月経周期においても変動するのが特徴です。
エストロゲンは、子宮内膜を厚くして妊娠の準備をしたり、乳房を発達させたりするホルモンです。20〜30代で最も分泌量が増え、閉経前には急激に減少します。
一方プロゲステロンは、妊娠に向けて子宮の働きを調整したり、乳腺の発達を促したりする働きがあります。
産後や更年期はホルモンバランスが大きく変化する時期です。エストロゲンの分泌が低下するため、性欲の低下を招きやすくなります。腟の潤いも低下し、セックスで痛みを伴いやすくなるのです。こうした背景はレスを招く一因になります。
生活リズムの乱れ
生活リズムの乱れは、性欲の低下をもたらすとされているため、注意が必要です。残業や夜更かしなどで睡眠不足が続くと欲求が低下します。さらにレスが続くと、睡眠の質も下がりやすくなり、負の循環に陥ってしまうのです。
セックスレスを解消するための5つのポイント
セックスレスを解消するために最も大切なのは、パートナーと二人で取り組むことです。どちらか一方だけの問題ではありません。原因を探りつつ、生活習慣を見直したり、スキンシップを取り入れたりすることから始めてみましょう。
セックスを拒んでいる理由を共有する
セックスを拒んでいるのには、何らかの理由があります。ご自身の気持ちをパートナーに伝えましょう。紙に、不満に思っていることや理想の状態を書き出して可視化すると、どこがすれ違っているのか、どこから手を付ければよいかが分かります。
ある研究によれば、性的な話題をオープンに語れるカップルほど、関係満足度と性生活満足度の両方が高いことが示唆されています。3)
大切なのは、「どちらが悪いか」を決める場にしないことです。二人がこれからどうすれば心地よく過ごせるか、同じ方向を向くための「作戦会議」と捉えましょう。5分だけでもいいので、時間をとって話す機会を設けてみてください。
食事・睡眠・運動など生活習慣を整える
性欲をコントロールするには、生活習慣を整えることが大切です。規則正しい睡眠、適度な運動、バランスのとれた食事を意識しましょう。
適度な運動も効果的です。週3回、30分程度のウォーキングなどの有酸素運動と軽い筋力トレーニングを組み合わせることで、血流が改善し、性機能の向上が期待できます。
食事は、1日3回規則正しく摂取することが重要です。さまざまな食品から、タンパク質・炭水化物・脂質・ビタミン・ミネラルをバランスよくとりましょう。魚や赤身肉、大豆製品には良質なタンパク質が含まれています。青魚やナッツ類に含まれるオメガ3脂肪酸は、血流を健やかに保ち、健康な体作りに役立ちます。野菜や果物、海藻・キノコ類・乳製品も毎日欠かさずに摂取してください。
スキンシップを心がける
いきなりセックスのハードルを越えようとするのではなく、手をつなぐ、ハグをするといった簡単な触れ合いから再開してみましょう。お互いに安心感が得られるため、心理的なハードルも自然と低くなるはずです。
マインドフルネスやカップルセラピーで心の緊張をほぐす
パートナーとだけ話し合っても空回りしてしまうときや、心の問題が根深いと感じるときは、専門家の力を借りるのも手です。
マインドフルネスの手法を取り入れたセラピーは、「行為の最中につい他のことを考えてしまう」といった悩みを持つ方におすすめです。呼吸や体の感覚に意識を向けることで、不安や雑念から解放され、「今、ここ」での触れ合いに集中できるようになります。
「いつも同じパターンで喧嘩になる」といったコミュニケーションの課題には、カップルセラピー(認知行動療法など)が役立つでしょう。お互いの無意識の思い込みやすれ違いを生む会話の癖を見つけ出し、よりよい関係を築くための方法を知る機会になります。
体の悩みは医師に相談する
セックスに関する悩みは、他の人に相談しづらいものです。しかし、専門医に相談することで、自分に合った方法が見つかる可能性があります。
女性の腟の乾燥や性交痛に対しては、女性ホルモンを補充する塗り薬や腟錠を使用した治療法などがあります。
男性の勃起不全(ED)も、医療で解決できる場合があります。、医師の処方による内服薬での治療も可能です。生活習慣の改善と併用することで効果が期待できます。
年代別セックスレスの解消方法
セックスレスの背景にはライフステージ特有の悩みがあります。同じ「レス」でも20代と50代では、心や体、置かれた環境が異なります。今日から取り組める年代別の対策を見ていきましょう。
なお、以下で示すセックスレスの割合は、ジャパン・セックスサーベイ2024(ジェクス株式会社)2)の調査結果を参照しています。
10~20代
10~20代で「月1回未満」と回答する人の割合は、男性50.4%、女性28.0%でした。
この年代は学業や仕事が忙しい世代です。日々の疲労によって、セックスをする意欲が低下することが考えられます。女性は、生理周期や妊娠への不安で避けてしまうこともあるでしょう。
まずは心身を整えるために、睡眠時間の確保を心がけてみてください。若い女性を対象にしたアメリカの研究では、睡眠時間が長いほど翌日の性欲が高まり、睡眠が1時間長くなると性交確率が14%上がることが報告されています。4)
良質な睡眠をとるには、日中はできるだけ日光を浴び、寝室にはスマートフォンやタブレットなどを持ち込まないようにしましょう。リラックスできる環境で眠ることも大切です。
ほかにも、避妊方法をオープンに話し合い、低用量ピルやコンドームの使い方を共有するのも効果的です。妊娠への不安が軽くなり、「誘われると構えてしまう」気持ちが和らぎます。
「気分が乗らない」といったマンネリや刺激不足を感じるなら、月に一度「未体験デート」を計画してみてはいかがでしょうか。快感物質であるドーパミンが活発に働く20代は、新しい体験によって性的好奇心が高まりやすいと言えます。カップル間の関係に新鮮な風を吹き込んでくれるでしょう。
30代
30代は、どちらの性別も約50%に増加します。
出産と育児など、生活に多くの変化が起きやすい時期です。心身の疲労が重なることで、パートナーへの意識が後回しになってしまうこともあります。
問題を一人で抱え込まず、専門家を頼ることが大切です。例えば、産後健診などを利用し、痛みやホルモンの状態、避妊について具体的に相談してみるのもよいでしょう。
パートナーとの心の距離を縮める工夫も欠かせません。平日に15分だけでも「夫婦の時間」を作り、子育て以外の話題で会話をしましょう。心の距離が縮まり、誘いやすい雰囲気になるかもしれません。
骨盤底筋トレーニングや軽い有酸素運動も有効です。血流を改善につながり、性交痛にも効果が期待できます。日常的に「ありがとう」「助かったよ」などと言葉にするのも大切です。
40代
40代では、月1回未満と回答する人が60%以上です。心身の変化を感じるようになり、セックスの課題が生じやすくなります。ホルモンバランスの変動から「性的な関心が薄れた」「面倒に感じる」といった声が増える時期です。
こうした変化は自然なことで、セックスを諦める必要はありません。心や体に寄り添いながら新しい刺激を持ち込めば、状況の改善も可能です。
例えば、ウォーキングや軽い筋トレからはじめてみましょう。全身の血流改善に効果が期待できるだけでなく、性欲に関わるテストステロンやエストロゲンの分泌を促し、性欲を高めることにもつながります。
マンネリを防ぐための「環境のリセット」も効果的です。「いつもと違う下着を試す」「ラブホテルなど非日常的な場所に出かける」といった工夫は、視覚や触覚に新鮮な刺激を与えます。
適切な睡眠も重要です。仕事や家庭で多忙を極める40代は、質のよい睡眠を確保することが、性欲を高める強力なサポートになるのです。
50代
50代になると、セックスレスはより増加する傾向にあります。調査では、男性が73.3%、女性は87.7%の割合となっています。この年代の主な原因は、閉経に伴う腟の乾燥やED(勃起不全)など加齢による体の変化が挙げられます。努力だけでは解消できないことも多く、医療の介入が必要になるケースも少なくありません。
閉経後の女性を悩ませる腟の乾燥や痛みに対しては、婦人科で処方される女性ホルモンを補充する薬(腟錠)や、保湿効果のあるヒアルロン酸ジェルなどが効果的です。
男性のEDには、医療機関で処方される治療薬(PDE5阻害薬)が第一の選択肢となります。
治療と並行して、体を整えるセルフケアも大切です。筋トレや週に150分程度の有酸素運動を行いましょう。
男女別セックスレスの解消方法
セックスレスの要因となるのが、男女で気持ちの差があること。それぞれが抱えやすい心と体の課題を踏まえ、今夜から試せるケアのコツを紹介します。
男性の場合
「小さな本音」を安心して言い合える関係性づくりに努めましょう。例えば、寝る前に「今日嬉しかったこと・モヤモヤしたこと」を話すことです。お互いへの安心感が高まり、拒絶への恐怖が和らいでいきます。
身体面では、男性ホルモンであるテストステロンの分泌によい生活を送ることが大切です。週3回程度の有酸素運動と筋トレを組み合わせることは、勃起機能の改善にもつながります。
もし、勃起が不安定な日が増えてきたら、泌尿器科の受診を検討しましょう。血管の状態やホルモン値をチェックしてもらい、対処法を相談してください。医療機関で処方されるED治療薬(PDE5阻害薬)は、有効性が確認されています。注意が必要なのは、インターネットなどで購入することです。成分が明らかでないものもあり、体への悪影響も報告されていますので、必ず医師の指導のもと使用するようにしてください。
女性の場合
女性は、痛みや不快感をなくす対策を取り入れてみましょう。ヒアルロン酸などが配合された潤滑ジェルは、デリケートな部分への刺激が少ないこともメリットのひとつです。
産後や閉経前後などで痛みや乾燥がつらいときは、婦人科の受診を検討してみてください。治療で使用されるエストロゲン製剤は、閉経期の腟萎縮改善への効果が確認されています。
心理面では、「誘われると構えてしまう」という緊張をほぐす工夫が大切です。例えば、性的な意図のないハグや肩もみといったスキンシップを日常的に続けると、安心感をもたらすホルモン「オキシトシン」が分泌され、誘いに対する心のガードが下がりやすくなります。
セックスレスに関するよくある質問
セックスレスに関するよくある質問にお答えしていきます。
Q. セックスレスによる離婚率は?
令和5年度(2023年度)の司法統計年報では、家庭裁判所に申し立てられた婚姻関係事件のうち、男性の約10%、女性の6%が「性的不調和(セックスレスを含む)」を離婚動機として挙げています。
すべてのカップルに当てはまるわけではないので、お互いを思いやりながら対策をとるようにしましょう。
Q. セックスレス解消におすすめなアイテムは?
悩みに応じていくつかの選択肢があります。おすすめのアイテムは以下のとおりです。
- 潤滑ジェル:性交痛を手軽に和らげる最初のステップとして、医療ガイドラインでも推奨されています。痛みや不快感を我慢しないためにも有効です。
- 女性向けの医療ケア:閉経期以降の腟の乾燥や痛みには、エストロゲンの局所投与やホルモン補充があります。5)精神的な要因に対しては、カウンセリングや向精神薬が使用されるケースもあります。
- 男性向けの医療ケア:ED(勃起不全)には、医師の診断のもとで処方される治療薬(シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル)が第一の選択肢です。6)「失敗したらどうしよう」という不安を解消し、自信を取り戻すのに役立ちます。
Q. セックスレスになったら終わり?
セックスレスになっても「終わり」ではありません。性交の有無は、お互いの関係性を測るひとつのバロメーターに過ぎないのです。それぞれが現在の状況に納得していることが大切です。
すれ違いや苦しさを感じたときは、関係を再構築するチャンスと捉えましょう。対話を通じてお互いの気持ちを共有し、生活習慣を見直すこともひとつの方法です。性的な目的のない「スキンシップ」も心がけてみてください。
心が晴れないときやセックスがうまくできないなどのお悩みには、専門家のカウンセリングを受けるのも手です。
セックスレス解消のためにはパートナーへの思いやりが大切
セックスレスを解消するには、パートナーを思いやる気持ちを持つことが大切です。できる方法からひとつずつ行ってみましょう。マンネリにならないように、いつもと違う雰囲気や環境なども工夫してみてください。
それでもなかなか解決できないときは、専門家に相談することも検討してみましょう。
参考文献
1)一般社団法人 日本性科学会. セックスレスについて. 日本性科学会 Web サイト.
2)ジェクス株式会社, 一般社団法人日本家族計画協会. JEX JAPAN SEX SURVEY 2024. ジェクス株式会社 Web サイト. 2023 Nov 14–17 実施.
https://www.jex-sh.jp/pdf/japan_sex_survey/sexsurvey2024.pdf
3)Mallory AB. Dimensions of couples’ sexual communication, relationship satisfaction, and sexual satisfaction: A meta-analysis. J Fam Psychol. 2021;36(3):358-371.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9153093/
4)Kalmbach DA, Arnedt JT, Pillai V, Ciesla JA. The impact of sleep on female sexual response and behavior: A pilot study. J Sex Med. 2015;12(5):1221-1232.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jsm.12858
5)公益社団法人 日本産科婦人科学会. 産婦人科 診療ガイドライン ―婦人科外来編 2023. 公益社団法人 日本産科婦人科学会 Web サイト. 2023.
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2023.pdf
6)日本性機能学会, 日本泌尿器科学会. ED診療ガイドライン[第3版]. リッチヒルメディカル; 2018 Jan 15.
https://www.jssm.info/guideline/files/EDguideine03_s.pdf
