妊娠初期には、女性ホルモンの変化やつわり、貧血などの影響で、強い眠気を感じることがあります。体調を崩さないためには、こうした変化に合わせた対策をとり、しっかりと体を休めることが大切です。
この記事では、妊娠初期に眠気が強くなる3つの主な原因と、眠気をやわらげるための方法などを詳しく解説します。
妊娠初期に眠気が強くなる3つの理由
妊娠初期に眠気を感じやすくなるのには、3つの理由があります。ひとつずつみていきましょう。
1.女性ホルモンの影響
妊娠初期は、女性ホルモンの一種であるプロゲステロンの影響で眠気が強くなることがあります。眠気が強くなるのは、プロゲステロンに体温上昇作用と鎮静作用があるためです。
前提として、人の深部体温は高いと体が活発になり、低いと眠くなりやすくなります。そして、プロゲステロンによる体温上昇作用によって、以下のような流れで眠くなるのです。
- プロゲステロンにより深部体温が上昇して体が活発になる
- 夜間の深部体温が低下しにくくなり深部体温のメリハリがつきにくくなる
- その結果、睡眠と覚醒のメリハリもつきにくくなり眠気が現れる
厚生労働省の「中小企業における母性健康管理の状況」では、女性労働者に妊娠中つらかったことを調査したところ、「妊娠初期の眠気がつらかった」という意見もありました。
2.つわりやストレスによる影響
つわりや妊娠に関連するストレスも、妊婦の睡眠に影響を与えます。女性の約7〜9割に見られ、妊娠5〜6週ごろから始まり、9〜16週ごろまで続くことが多いです1)2)。
つわりによる食欲低下や胃の不快感、不安やストレスは、睡眠の質を下げ、日中の眠気を強める可能性があります。
眠気以外の症状例は以下のとおりです。
- 食欲の低下
- 胃の不快感
- 吐き気
- 嘔吐
- 唾液が多くなる
また、妊娠中は心配事が増え、不安やストレスを感じやすくなります。これらの要因から睡眠の質が低下し、日中に眠気を感じやすくなるのです。
3.貧血の影響
赤ちゃんへ鉄分を供給したり、出産に備えて血液量を増やしたりする必要があるためです。しかし、血液中の赤血球を急激に増やすことは難しく、妊婦は貧血になりやすい傾向があります。
妊娠中の貧血は、分娩時の出血への耐性を下げるだけでなく、赤ちゃんの発育にも影響を及ぼす可能性があります。眠気に加えて、疲れやすさ・だるさ・頭痛・耳鳴りなどの症状がある場合は、貧血のサインかもしれません。早めに医師に相談するようにしましょう。
妊娠初期の眠気を軽減するための4つの対策
眠気を完全になくすことが難しくても、日常の工夫で軽減することは可能です。
妊娠初期の眠気対策としておすすめの方法を4つご紹介します。
1.起床と入眠のメリハリを付ける
起床と入眠のメリハリを付けると、睡眠の質の向上に役立ちます。
妊娠中だけでなく、普段の生活でも午後は眠気が襲ってきやすいです。夜の睡眠時間を出来るだけ多くとり、睡眠不足にならないようにしましょう。
以下のようにメリハリを付けるための工夫と、睡眠の環境の調整が大切です。
2.つわりを軽減させる
つわりの症状を軽快できれば睡眠の質の改善にもつながります。つわりのタイプ別の対処方法は、以下のとおりです。
つわりを悪化させないために、以下のことにも注意しましょう。
- 締め付けの強い下着やズボンは避ける
- スマートフォンやパソコンを使用しすぎない
- 気分転換に軽い運動を心がける
- 満員電車や高温多湿な環境を避ける
- ストレスが溜まらないように心がける
つわりには、明確な治療法が確立されていません。また、対処法の効果も個人差が大きく、人によって合う・合わないがあります。無理をせず、医師や看護師と相談しながら、ご自身に合った方法を少しずつ見つけていきましょう。
3.適度な運動を取り入れる
適度な運動には、睡眠の質を高める効果があると報告されています。妊娠中も、無理のない範囲で体を動かすことがすすめられており、以下のような運動が好ましいとされています。
- 妊婦体操
- 散歩
- ストレッチ
- エアロバイク
- 水泳
運動時間は週に1~3回、1日20~60分を目安にすることが望ましいです3)。
ただし、お腹が張っているときや体に疲れを感じるときは、無理をせず休息を優先しましょう。体調を第一に、ご自身のペースで取り組むことが大切です。
4.不安やストレスを軽減する
妊娠中は心と体が大きく変化する時期であり、以下のようなことに対して不安を感じやすく、ストレスとなってしまうことがあります
- 妊娠は順調に進んでいるのか
- 赤ちゃんが順調に発育しているのか
- 妊娠や出産の跡が残らないか
- 出産後、育児はうまくできるのか
- 体重が増えてしまっている
こうした不安を軽減するには、周囲のサポートが不可欠です。パートナーからのサポートが手厚いことや、家族・職場の協力が、妊婦の心理的な安定や満足度の向上に大きく寄与するという報告もあります。
とくに妊娠中は、パートナーのサポートに対する期待や評価が高まる傾向にあります。妊婦のストレスをやわらげるためにも、夫婦間のコミュニケーションを深め、支え合える関係性を築くことが大切です。
妊娠初期の仕事中におすすめな3つの眠気対策
妊娠中は「どうしても仕事中に眠くなってしまう」という方も多いかもしれません。
ここでは、オフィスや在宅勤務でも取り入れやすい、簡単な対処法をお伝えします。
1.休憩時間に昼寝をする
休憩中に短時間の昼寝を取り入れることで、仕事中の強い眠気をリセットしやすくなります。ただし、長く眠りすぎると夜間の睡眠に影響を与え、かえって生活リズムを乱してしまう可能性があります。
昼寝は軽い睡眠で目覚められる「30分以内」が理想的です。
また、昼寝後は常温の水で顔を洗うことで、気分がリフレッシュされ、一時的に眠気が和らぐ効果も期待できます。
2.軽い体操やストレッチをする
休憩時間や仕事の合間に、以下のような軽い体操やストレッチを行うと眠気覚ましに役立ちます。
ただし、反動を使った動きや過度なストレッチ、腹筋を使う動作は避けましょう。
また、お腹が張りやすい方など、妊娠の経過によって行える運動は異なります。必ず医師に相談したうえで体操やストレッチを検討してください。
体を少し動かすだけでも、気分転換になり集中力が戻りやすくなります。無理のない範囲で、こまめに取り入れてみましょう。
3.眠気覚ましのツボを押す
眠気を飛ばすツボを刺激すれば、眠気の軽減が期待できます。
強く押しすぎず、心地よいと感じる力加減を意識しましょう。デスクワークの合間など、気づいたときに試してみるのもおすすめです。
妊娠初期の眠気対策としてやってはいけない2つのこと
眠気をなんとかしようと、つい間違った対策をとってしまうことも。
ここでは、妊娠中に避けたい注意点を2つご紹介します。
1.カフェインを摂り過ぎない
妊娠中のカフェイン摂取は、量に気をつけることが大切です。
過剰な摂取は、流産のリスクや赤ちゃんの発育に影響を及ぼす可能性があるとされています。不安になりすぎる必要はありませんが、日常的に口にする飲み物のカフェイン量を把握し、適量を心がけましょう。
以下の表を参考に、1日のカフェイン摂取量を調整してみてください。
2.貧血対策にレバーを食べるのは控える
貧血対策としてレバーを取り入れる場合、妊娠初期(とくに妊娠3か月まで)は控えると安心です。
レバーには鉄分が豊富ですが、同時にビタミンA(レチノール)も多く含まれています。妊娠初期にビタミンAを過剰に摂取すると、赤ちゃんの奇形リスクが高まるとされているため注意が必要です。
妊婦の1日のビタミンA摂取上限は2,700μgRAEとされています4)。たとえば、焼き鳥のレバー2/3本(約20g)だけで、この上限を超えてしまうこともあります。
とはいえ、一度食べたからといってすぐに異常が起こるわけではありません。気づかずに一度に多く摂取していた場合でも、今後しばらく控えれば過度に心配しなくてもよいでしょう。
妊娠初期の眠気に関する2つの疑問
眠気が強いと「このままで大丈夫かな?」と不安になることもあるかもしれません。ここでは、妊娠初期の眠気について多くの方が感じる疑問についてお答えします。
Q.妊娠初期の眠気はいつからいつまで続く?
妊娠初期には、強い眠気に悩まされる方が多く、昼寝を含めて睡眠時間が増える傾向があります。妊娠中期になると、早朝に目が覚めやすくなる傾向(早朝覚醒)が見られ、妊娠末期には夜間の睡眠時間が短くなることもあります。
ただし、妊娠期を通して日中に強い眠気を感じたという報告もあり、眠気の出方には個人差が大きいといわれています。
Q.妊娠初期は寝てばかりで大丈夫?
妊娠中の睡眠時間は、長すぎても短すぎても、赤ちゃんの発達に影響を及ぼす可能性があると報告されています。
妊娠中の睡眠時間と子どもの発達を比較した研究もあります。その結果、妊婦の平均睡眠時間が6時間未満、9〜10時間未満、または10時間以上だった場合、7〜8時間未満の人と比べて、子どもが3歳時に自閉症と診断されるリスクが1.5〜1.9倍高かったことが報告されています5)。
とはいえ、この結果に対して過度に不安になる必要はありません。睡眠に対して神経質になりすぎると、かえって眠りの質が低下してしまう恐れがあります。
まずは、無理をせず、しっかり体を休めることを最優先にしましょう。
妊娠初期の眠気以外の症状とその対策
妊娠初期は眠気やつわりの他にも、さまざまな体の変化が起こります。とくにはじめての妊娠では、こうした症状に戸惑いや不安を感じる方も多いもの。ここでは、妊娠初期に見られる代表的な不調とその対処法をご紹介します。
妊娠初期に起こる体の不調は、人によって症状も程度もさまざまです。「自分だけじゃない」と知るだけでも、心が軽くなることがあります。
不安なときは一人で抱え込まず、周囲のサポートや医療機関に頼りながら、無理のない過ごし方を心がけましょう。
妊娠初期の眠気が不安なときは専門家に相談しよう
妊娠初期は、女性ホルモンの変化により眠気を感じやすくなる時期です。また、つわりやストレスの影響で睡眠の質が下がり、日中に強い眠気を感じることもあります。
さらに、妊娠中は貧血になりやすく、その症状のひとつとして眠気が現れる場合もあります。もし、眠気に加えて疲れやすさ・だるさ・頭痛・耳鳴りなどの症状がある場合は、貧血の可能性もあるため、早めに受診するようにしましょう。
日中の強い眠気は、生活リズムの乱れが原因になっている場合もあります。不安なときはひとりで抱え込まず、専門家に相談してみてくださいね。
参考文献
- Miyake Y, Tanaka K, Arakawa M. Fish and fat intake and prevalence of depressive symptoms during pregnancy in Japan: baseline data from the Kyushu Okinawa Maternal and Child Health Study. Health Sci Res. 2020;30:380-388. doi:10.24522/jhcs.2020_380
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hcs/2020/30/2020_380/_pdf/-char/en
- 厚生労働省. つわり(悪阻). 母性健康管理サイト「ボセイナビ」. 厚生労働省; 2024.
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/glossary/symptom01.html
- 厚生労働省. 妊産婦のための食生活指針(令和3年度改訂版). 厚生労働省; 2021.
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf
- 北九州市. 妊娠中の食生活について. 北九州市; 2022.
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000994068.pdf
- 九州大学. 妊娠中の魚摂取量と出生児のアレルギー発症リスクとの関連を解明. 九州大学; 2020.
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/745/





