切迫早産で入院するかどうかの判断は、子宮収縮の強さ・頻度、頸管長の短縮、子宮口の開大、破水や出血の有無などを総合的に見て行われます。本記事では、切迫早産の入院基準や期間の目安などを解説します。
切迫早産の兆候や、リスクを下げる生活習慣についても詳しく紹介しますので、万が一に備えるための参考情報としてご活用ください。
切迫早産の入院基準
切迫早産とは、妊娠22週以降37週未満で赤ちゃんが生まれてしまう早産が起こる可能性が高い状態を言います。具体的には、以下のような症状がみられる場合です。
- 子宮収縮(お腹の張りや痛み)が規則的かつ頻繁に起こっている
- 子宮口が2cm以上開き、赤ちゃんが出てきそうな状態になっている
- 前期破水(子宮の中で赤ちゃんを包んでいる膜(卵膜)が破れて羊水が流れ出る)が起こる
子宮収縮が強く、子宮頸管の長さが短くなったり、子宮口開大(子宮がだんだん開いてきている状態)が進んでいる場合は、必要に応じて子宮収縮を抑える点滴や内服薬による治療と安静管理が行われます。
一方、子宮収縮の程度が軽く、子宮頸管の長さが保たれており、子宮口の開大がみられない場合には、外来や内服治療で経過観察することもあります。
切迫早産の入院期間の目安
切迫早産による入院期間は、症状や妊娠週数によってそれぞれです。
以前は1〜3か月以上の長期入院も珍しくありませんでしたが、近年では、治療方針の見直しが進み、入院期間は短縮傾向にあります。状態が安定していれば、在宅での内服治療に移行することも増えてきました。
一方、近年の日本の出生数が減っているのに対して早産の割合はむしろ増えており、2019年には全体の約5.6%を占めています1)。理由として、高年齢妊娠(35歳以上)での妊娠が増えていることや、働きながら妊娠生活を送る女性の増加などの社会的な変化が考えられます。
こうした状況からも、今後切迫早産のリスクに直面する妊婦が増えていく可能性は高いでしょう。妊活中や妊娠中の方にとっては、自分と赤ちゃんを守るためにも正しい知識を身につけておくことが大切です。
切迫早産で入院した場合の治療方法
切迫早産で入院した場合は、次のような薬物療法が検討されます。
妊娠34週未満で破水が起こった場合、赤ちゃんの肺がまだ十分に成熟していない可能性があります。そのため、赤ちゃんができるだけお腹の中で成長できるように、必要に応じて抗菌薬とステロイド薬が投与されることがあります。ステロイド薬は肺の成熟促進と脳出血を予防する目的で、抗菌薬は感染予防と妊娠期間を延長する目的で使われます。
一方、34週以降であれば赤ちゃんが自力で呼吸できる可能性が高いため、状況に応じて自然な出産に進み、出生後は新生児治療室で適切なケアが行われます。
また、破水や子宮収縮などの症状がないまま妊娠中期に子宮口が開いてしまう状態を「子宮頸管無力症」と呼びます。この場合、流産や早産を予防するために「子宮頸管縫縮術(しきゅうけいかんほしゅくじゅつ)」という手術が検討されることがあります。主に妊娠22週未満に行われますが、状況に応じて緊急で行われることもあるでしょう。
切迫早産で入院となった場合の費用や持ち物
切迫早産による入院は健康保険の対象となるため、基本的に自己負担は3割です。帝王切開となった場合でも、高額療養費制度を活用すれば費用の負担を抑えることができます。
入院に備えて、以下のような持ち物を事前に準備しておくと安心です。
急な入院で最低限あれば助かるもの
- パジャマ、下着
- 洗面用具
- スマホ充電器
- 母子健康手帳、診察券、保険証
- 眼鏡・コンタクト用品
出産までそのまま入院になる可能性もある場合にあると便利なもの
- 現在内服している薬
- 手術用腹帯(帝王切開の方)
- 筆記用具
- 母乳パット
- 授乳用ブラジャー
- バスタオル数枚
- バスマット
- バス用品
- 爪切り
- 退院時の赤ちゃんの服等
- 箱ティッシュ
- スプーンやストロー等
病院によっては「お産セット」や「アメニティセット」が用意されている場合もあります。
入院する可能性のある医療機関が決まっている場合は、持ち物や提供される備品について事前に確認しておくことをおすすめします。
切迫早産による赤ちゃんへの影響
切迫早産が進行し、実際に早産になると、赤ちゃんは予定よりも早く生まれることになります。とくに妊娠週数が早い段階での出産では、肺が未熟で呼吸が難しい、体温調節や哺乳がうまくできないなどのケースがあり、医療的なサポートが必要になる可能性があるでしょう。
このような場合、赤ちゃんはNICU(新生児集中治療室)やGCU(新生児回復室)に入院し、呼吸管理や栄養補助などのケアを受けながら成長のサポートを受けます。
もちろん、早産だからといってすべての赤ちゃんが未熟な状態で生まれるとは限りません。週数や赤ちゃんの発育状況によっては、大きな医療介入はほとんど不要な場合もあります。
早産にはたしかにさまざまなリスクがありますが、NICUやGCUでの医療体制も進歩しており、適切なケアを受けながら元気に成長していくお子さんもたくさんいます。必要以上に自分を責めず、「今できること」を医療者と一緒に考えていきましょう。
切迫早産の入院による母親への影響
切迫早産による長期の安静や入院生活は、母体の体力や筋力の低下を招くおそれがあります。とくに35歳以上の妊婦は産後の体力回復が遅れる傾向があり2)、育児に影響するケースも考えられます。
入院中は必要とされる安静を保つことが最優先ですが、医師の許可があれば軽いストレッチや間接を動かす運動を取り入れ、出産後にスムーズに日常生活へ戻れるようにすることも大切です。
出産後に、
- 赤ちゃんを抱っこすると腰に強い痛みが出て、長時間の抱っこが難しい
- 筋力低下により、家事や育児などの日常動作に支障を感じる状態が続いている
このような状態がみられる場合は、家族によるサポート体制の強化や、ベビーシッター・産後ケアサービスの活用を検討しても良いでしょう。
切迫早産の入院生活のつらい気持ちを軽減させる3つの方法
切迫早産による入院生活は、身体的な制限だけでなく、精神的にも大きなストレスがかかります。先の見えない不安、孤独感、体力の低下……そんなつらい気持ちを、少しでもやわらげるための方法を3つご紹介します。
1.考え込まないで、不安なことを相談する
切迫早産と診断されると、次のような不安を感じるかもしれません。
- 赤ちゃんを失ってしまうのではないかという恐怖
- 赤ちゃんを守りたいのに、どうすればいいのかわからないもどかしさ
- 入院や治療への心配
- 突然の入院による、生活や家計への影響
こうした不安は自分だけで抱え込まず、医師や看護師へ遠慮なく相談しましょう。もし、医療スタッフには話しづらいと感じる場合は、パートナーや家族、信頼できる友人など、身近な人に思いを打ち明けるだけでも心が軽くなることがあります。
2.リハビリテーションに取り組む
「妊娠中にリハビリテーション(リハビリ)をしても大丈夫なのか」「かえって流産や早産のリスクが高まるのでは」と心配になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、適切に計画されたリハビリは、妊婦にとって有益な場合があります。
実際に、切迫早産で長期入院・安静管理となった妊婦がリハビリに取り組んだ結果、気持ちがポジティブになったという報告3)もあります。
ただし、こうしたリハビリは一律に行うものではなく、すべての医療機関で受けられるわけではありません。産科医とリハビリスタッフが連携し、一人ひとりの状態に応じて安全性を確認しながら進めていきます。
適切なプログラムのもとで行えば、切迫早産のリスクを高めることなく、長期安静による筋力や心身機能の低下によって起こる廃用症候群を予防・改善できる可能性もあります。
3.趣味や資格勉強などで気分転換できるようにする
切迫早産による入院生活では活動が制限されるため、どうしても退屈を感じやすく、気分が沈んでしまう方も少なくありません。
そんなときは、安静にしながらできることで気分転換するのがおすすめです。たとえば、以下のようなことに取り組む方がいます。
- 読書
- 資格勉強
- 携帯ゲーム
- 音楽・映画鑑賞
- TV鑑賞
- ネットサーフィン
ただし、医師の許可を得たうえで無理のない範囲で行いましょう。
また、同じ病室で過ごす他の妊婦さんへの配慮も忘れずに。音量や使用時間に気をつけながら、自分なりの「気分転換の工夫」を見つけてみてください。
そもそも切迫早産にはどんな兆候があるの?
そもそも切迫早産にはどういう兆候があるのでしょうか。切迫早産では、以下のような症状が現れることがあります。
- 生理のような下腹部の痛み
- 下腹部の張り
- 破水
- 破水感(破水したような感覚)
- 水っぽいおりものが急に増える
- 血液の混じったおりもの
- 性器からの出血
- 腰痛
下腹部の痛みや張りは、周期的または持続的に起こり、安静にしても改善しないことが特徴です。妊娠中に破水感やお腹のはりなどの症状、不安を感じたときは一人で悩まず、医師や助産師に早めに相談しましょう。
切迫早産になりやすい人の特徴
切迫早産には、体質や生活習慣、妊娠の状況などが影響するとされています。とくに以下のような条件に当てはまる方は、切迫早産のリスクが高まると考えられています。
- 痩せ型(BMI18.5未満)である
- 10代などの若年妊娠である
- 喫煙や飲酒の習慣がある
- これまでに早産を経験している
- 高年初産(35歳以上)である
また、感染症や高血圧、子宮筋腫、子宮内感染なども、切迫早産のリスクを高める要因になります。
切迫早産を防ぐ5つの対策
切迫早産は完全に防げないものの、日頃の生活習慣の見直しでリスクを下げることができます。ここでは、基本的な予防法をご紹介します。
1.禁酒・禁煙をする
妊娠中の禁酒・禁煙は、切迫早産や赤ちゃんへの影響を防ぐために非常に重要です。妊娠中のアルコール摂取は量が多いほど早産のリスクが高まるとされており、胎児性アルコール症候群(FAS)の原因にもなります。妊娠がわかったら禁酒しましょう。
また、タバコに含まれる成分には血管を収縮させる作用があり、胎盤の血流が減少して赤ちゃんに十分な酸素や栄養が届かなくなることがあります。これが、胎盤機能の低下や早産のリスクに直結します。
喫煙は妊娠32週未満の早産が1.3〜2.5倍になるという報告4)もあり、妊娠がわかった時点、あるいは妊娠を希望する段階から禁煙することが望ましいでしょう。
2.お腹に負担をかけない
お腹に過度な負担がかかると、子宮の収縮が促されて切迫早産のリスクが高まることがあります。日常生活の中でも、以下のような動作には注意が必要です。
- 重い物を運ぶ
- 布団の上げ下ろし
- 中腰での掃除機やアイロンがけ
- 長時間の立ちっぱなし
- 自転車での買い物
このような動きをすると無意識のうちに腹圧がかかりやすく、体に負担が蓄積されてしまいます。
「物を拾うときは膝を曲げて腰を落とす」「掃除機をかけるときは背筋を伸ばす」など、動作の姿勢を工夫することで、お腹への圧迫を軽減しましょう。できる範囲で家族や周囲のサポートを受けることも大切です。
3.体重管理をする
妊娠前にBMI18.5未満の痩せに該当している方は、切迫早産のリスクが高まると報告があります5)。切迫早産の他にも以下のリスクが高まります。
一方、妊娠前にBMI25以上の肥満に該当している場合は、巨大児などのリスクが上昇するとも報告されています5)。妊娠前の体重は、BMI18.5〜25の間で管理することが望ましいでしょう。
妊娠期は、週数によって必要なエネルギー量も増加します。目安は以下のとおりです6)。
- 妊娠初期:+50kcal/日
- 妊娠中期:+250kcal/日
- 妊娠後期:+450kcal/日
1日3回の食事が難しい場合は、おにぎりやパンなどを間食で補うなど、こまめに栄養を摂る工夫も効果的です。
「痩せすぎ」または「太りすぎ」は見た目の問題だけではなく、赤ちゃんの健康リスクにも直結します。妊活中から体重管理を意識していきましょう。
4.カフェインを摂り過ぎないようにする
妊娠中にカフェインを大量に摂取すると、早産のリスクが高まる可能性があると報告されています。カフェインは胎盤を通じて赤ちゃんにも影響を与えるため、過剰な摂取は控えましょう。
日本では、現時点で妊娠中のカフェイン摂取量について明確な基準を定めていません。しかし、世界保健機構(WHO)をはじめ海外の主な機関では、妊娠中の1日あたりのカフェイン摂取量について以下のように基準を設けていますのでご紹介します。
コーヒー1杯(150〜200ml)には約60〜100mgのカフェインが含まれているため、1日1〜2杯までを目安にすると安心です6)。なお、緑茶・紅茶・チョコレート・栄養ドリンクなどにもカフェインは含まれているため、合算して考える必要があります。
「知らずに摂りすぎていた」とならないよう、日頃から意識してカフェイン量を管理することが大切です。
5.便秘を予防する
妊娠中はホルモンの影響により、腸の動きが鈍くなり便秘になりやすくなります。便秘が続くと腹圧がかかり、子宮を刺激してお腹の張りを強める原因となることがあります。
次のような対策を日常的に取り入れて、便通の改善を心がけましょう。
- 十分に水分補給する
- 食物繊維が豊富な食品を摂取する
- ヨーグルトなどから乳酸菌を摂取する
- 散歩やストレッチなどの適度な運動をする
それでも改善しない重度の便秘は、必ず医師に相談してください。妊娠中でも使用できるマグネシウム製剤などの便秘薬が処方されることがあります。刺激性下剤は自己判断で使わないようにしましょう。
切迫早産が不安なときは相談しよう
切迫早産と診断され、子宮収縮が強く子宮口の開大が進んでいる場合は、早産を防ぐための入院治療が必要になることがあります。入院期間は1〜3か月以上に及ぶこともあるため、生活の変化や不安を抱える方も少なくないでしょう。
早めに切迫早産の兆候に気づけるよう、下腹部の張りや破水感などのサインにも常に意識を向けておくことも大切です。
妊娠中は、ちょっとしたことでも心配になってしまうもの。「切迫早産になったらどうしよう」「このお腹の張りは大丈夫?」など不安があるときは、かかりつけ医や専門家に相談しましょう。
参考文献
1)伊東 麻美, 田中 幹二. Late preterm・Early term児の疫学―産科 週数別出生数の年次推移―わが国と世界の動向. 周産期医学. 2022年4月10日;52巻4号:443-446.
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.24479/peri.0000000103
2)松嶋 知子, 横山 美江. 高年初産婦の育児支援に関する文献学的考察. 大阪市立大学看護学雑誌. 2021;17巻:18-26.
https://ocu-omu.repo.nii.ac.jp/record/2016079/files/24347779-17-18.pdf
3)吉田志朗. 切迫流産・切迫早産治療中のリハビリテーション医療. Jpn J Rehabil Med. 2023;60:578-583.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/60/7/60_60.578/_pdf
4)林 昌子. 早産の予防と管理. 日医大医会誌. 2020;16(3):138-143.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/16/3/16_138/_pdf
5)日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン―産科編2023. 2023.
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2023.pdf
6)東京都食品衛生FAQ. コーヒーにはカフェインが含まれているので、飲むと胎児に影響があると聞きました。本当ですか?【食品安全FAQ】. 東京都保健医療局Webサイト.
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/anzen/anzen/food_faq/sonota/sonota10






