「最近、体重が増えすぎているかも……」
健診での指摘や鏡に映る姿に不安を感じる妊婦さんは少なくありません。厚生労働省や日本産科婦人科学会が示す推奨範囲を超える体重増加は、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などのリスクを高めることが分かっています。
一方、近年はBMI18.5未満の“痩せ型妊婦”が増え、体重が増えなさすぎると低出生体重児や発育遅延のリスクが高まることも問題視されています。
つまり、妊娠中の体重は、「増えすぎ」も「増えなさすぎ」も避けたいのです。極端な食事制限や過度な運動ではなく、正しい情報と無理なく続けられる習慣が鍵。
本記事では、今日から実践できる体重を増やさないための「食事・運動・メンタル面のコツ」を9つに絞り、分かりやすく紹介します。
妊娠中に体重が増えるのはなぜ?
妊娠中に体重が増えるのは、ごく自然な現象です。これは単に「食べ過ぎたから」ではありません。身体の中でさまざまな変化が起きており、その結果として体重が増えていくのです。
たとえば、赤ちゃんの重さに加えて、
- 胎盤・羊水・子宮の拡大・血液量の増加
- 乳房の発達
- 母体の脂肪蓄積
といった、合計数キログラムに及ぶ増加要因があります。特に血液量は妊娠前と比べて約1.4倍に増えるとも言われており、これだけでも体重が1〜2㎏ほど増えます。
また、赤ちゃんを育てるためには栄養を蓄える必要があるため、母体には脂肪がつきやすくなります。これは「母体の自己防衛反応」のようなもので、飢餓状態に備える本能的な働きです。
つまり、「体重が増えること=悪いこと」ではありません。むしろ、赤ちゃんを育て、出産するために必要な準備です。ただし、その増加が「適正範囲内」であることは重要です。なぜなら、過剰な増加は、妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群・難産などのリスクを高めることがあるからです。
妊娠中の適正体重はどのくらい?
妊娠中に「どれくらい体重が増えてもいいのか」は、実は明確な指標があります。これは、妊娠前のBMI(体格指数)に基づいて決められており、日本産婦人科医会のガイドラインで推奨されている基準です。
BMIは、「体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))」の式で計算できます、例えば身長1.60 m(160cm)・体重55kgの場合、BMIは約21.48となります。
以下はガイドラインを参考にした、体重増加の目安です。
この数値には、赤ちゃん・胎盤・羊水・子宮・血液などの生理的な増加分が含まれています。つまり、「体重が何キロ増えた=太った」と短絡的に考えるのではなく、「必要な体重がどれくらいなのか」を把握することが大切なのです。
なぜこれが重要かというと、体重の増加量が多すぎても少なすぎても、母体や赤ちゃんにとってリスクが高くなるからです。過剰な増加は、妊娠糖尿病や高血圧症候群、分娩時のトラブルなどに繋がりやすく、逆に増加が少なすぎると、胎児発育不全や早産のリスクが高まるとされています。
つまり、自分の身体に合った「適正な増加幅」を知ることは、安心して妊娠期を過ごすための“土台”となるわけです。
妊娠中に体重を増やさない方法9選
体重の増加は避けられないとはいえ、「必要以上に増やさない」ための工夫はできます。
たとえば厚生労働省の食事摂取基準では、妊娠初期は+50kcal/日、中期は+250kcal、後期でも+450kcal程度の“ちょい増し”で十分と示されています。つまり「妊娠=二人分」ではなく、“必要分だけ上乗せ”が基本なのです。
ここからは、食事はもちろん、運動・心のケアの3方向から、今日から無理なく始められる9つの工夫を紹介します。
1.軽い有酸素運動を習慣化する
かつては妊娠中、特に流産や早産のリスクを避けるために安静に過ごすという考え方が一般的でした。しかし、現在では妊娠経過が正常で、特に大きな合併症がなければ、妊娠中の適度な運動が推奨されています。気分のリフレッシュ、体力増強、健康維持といった面から積極的に勧められているのです。母体の健康促進だけでなく、妊娠中および出産後の健康にも良い影響を与えるためです。
ただ、どのような妊婦さんでも運動を行って良いわけではありません。運動をおこなう際には、以下の条件を満たしている必要があります。
- 妊娠経過が正常であること
- 後期流産や早産の既往がないこと
- 反復リスクの高い常位胎盤早期剥離や妊娠高血圧腎症などの既往歴がないこと
少しでも不安のある方は、事前に医師に確認してから運動をおこなうようにしましょう。おすすめなのは有酸素運動(ウォーキングやヨガなど)で、楽しみながら長続きするものであることが望ましいとされています。
2.自分の適正増加幅を知る
体重管理の第一歩は、「何を目指すのか」を知ることです。妊娠前のBMIに応じた推奨増加量をご自身で把握しておくことで、「今日はちょっと増えすぎたかな」と思っても、基準内であれば安心できます。逆に、まだ増えても良い範囲なら、食事制限を過剰にしなくて済むでしょう。
前の章でも解説したように下記は、日本産婦人科医会のガイドラインで推奨されている基準です。
おすすめは、週に1度、現在の体重と目安増加量をグラフにすること。アプリでも紙のノートでもかまいません。「数字で見る」ことで冷静に現状を把握でき、感情に左右されにくくなります。体重は「評価」ではなく、「健康のバロメーター」だと捉えることが大切です。
3.数日平均で食事を調整する
「今日食べすぎたから、明日は我慢しなきゃ」と思うと、つい無理な制限をしてしまいがちです。しかし、妊娠中の身体にとって大切なのは“バランス”。1日単位で完璧を目指すより、3〜7日単位でトータルの摂取量を見直す方が、実はうまくいきます。
たとえば、週末に外食で少しリッチなメニューを食べたなら、週明けは野菜中心のあっさり献立にする。それだけで自然と帳尻が合います。体重計の数字は「トレンド」を見る道具。日々の増減に一喜一憂せず、流れを見る視点を持ちましょう。
4.周囲にヘルプでストレス食べを防ぐ
妊娠中は心が不安定になりやすく、気づかぬうちに“食べることで安心したい”という衝動に駆られる方もいるでしょう。特にストレスや孤独感が重なると、甘いものやジャンクフードに手が伸びがちです。
だからこそ、「今つらいかも」「イライラしてるな」と思ったら、我慢せずにパートナーや家族に伝えてみましょう。話すだけでも気持ちが落ち着き、食欲の暴走を防ぐことができます。周囲に理解してもらうことは、遠慮すべきことではありません。むしろ、「助けてもらえる環境をつくること」も、妊娠期の大切な準備です。
5.主菜は低脂質×ローテーションを意識する
「何を食べるか」よりも「どう組み合わせるか」が体重管理には重要です。特に主菜は、脂質の少ない食材を使って、多様なメニューを日替わりで楽しむのが理想です。たとえば、月曜日は鶏むね肉、火曜日は豆腐の炒め物、水曜日は白身魚の煮つけ…と、栄養バランスと飽きにくさを両立させましょう。
さらに、味付けの工夫もポイントです。ポン酢・味噌・カレー風味など、同じ食材でも味を変えるだけで食事の満足度が大きく変わります。料理が面倒なときは、冷凍野菜やパックの豆腐を活用するのも良いでしょう。無理なく続けるためには、「楽に作れる工夫」こそが味方になります。
6.鉄と葉酸を意識して甘い物への偏りを防ぐ
甘い物ばかり欲しくなるときは、単に「意思が弱い」わけではなく、食事バランスの乱れが背景にある場合があります。とくに妊娠中は、厚生労働省の調査でも鉄分・葉酸など多くの栄養素が不足しやすいことが報告されています。
不足が続くと疲労感や倦怠感が強まり、手軽な糖質でエネルギーを補おうとする行動に偏りがちです。
そこで「甘い物を我慢する」よりも「不足しやすい栄養素を先に満たす」発想が有効です。
葉酸は胎児の神経管閉鎖障害リスク低減、鉄分は妊娠貧血の予防に欠かせません。食事だけで必要量(葉酸480µg、鉄9〜16mg/日)を満たしにくい場合は、主治医に相談のうえでサプリメントを活用すると安心です。栄養をしっかり補給すると空腹感が自然に落ち着くことが多く、心身へのストレスも少なくて済みます。
7.副菜でかさ増し+ビタミン・ミネラルを補給する
「なんとなくお腹がすいて、つい食べ過ぎてしまう」という時こそ、副菜の出番です。野菜・きのこ・海藻類を使った副菜は、カロリーを抑えつつ食べごたえをアップできるので、主菜や炭水化物の量を自然に減らすことができます。
具体的には、具だくさんのお味噌汁、ひじきの煮物、切り干し大根の和え物などがおすすめです。これらは食物繊維も豊富で、便秘対策にも役立ちます。「まず副菜から食べる」という順番も、血糖値の急上昇を防ぎ、脂肪がつきにくい食べ方のひとつです。
8.「二人分」ではなく"ちょい増し"を意識する
「妊婦だから、二人分食べなきゃ」と考えていませんか?これは昔の迷信に近く、現在のガイドラインでは、妊娠初期は+50kcal/日、中期は+250kcal、後期でも+450kcal程度の“ちょい増し”で十分と言われています。
これは、バナナ1本〜おにぎり1個分程度の“ちょい増し”に過ぎません。つまり、「ちょっとだけ多めに」が正解なのです。妊娠を理由に食べ過ぎるのではなく、「赤ちゃんに必要な分だけ、質を高めて届ける」意識が大切です。
9.間食は"カルシウムリッチ"へ置き換える
小腹が空いた時、何を選ぶかで体重管理は大きく変わります。おすすめは「カルシウムが豊富で満足感のある食品」です。
たとえば次のような食品が該当します。
- 無糖のヨーグルト
- 小魚入りのおやつ
- チーズ
- 素焼きのアーモンド
カルシウムは妊娠中に必要量が増える栄養素で、骨の形成のほか、イライラや筋肉のこわばりを防ぐ働きもあります。甘いスナック菓子やジュースではなく、「栄養を補いながら満たされるおやつ」を選ぶことで、体重の増加を抑えつつ満足感も得られるようになるでしょう。
妊娠中の体重に関するよくある質問
体重管理については、個人差や体調の違いも大きく、「これで合っているの?」と不安になることも多いでしょう。ここでは、よくある3つの疑問について、専門的な見解とともにお答えします。
1.妊娠中にダイエットで痩せるのはありですか?
基本的に、妊娠中に「痩せること」を目的としたダイエットは推奨されていません。特に急激なカロリー制限や極端な食事制限は、赤ちゃんの発育に必要な栄養が不足する原因となります。
ただし、「適正範囲を超えて体重が増えている」場合は、医師や管理栄養士の指導のもとで、栄養バランスを整えたり、運動習慣を見直すことは可能です。重要なのは「痩せる」ではなく、「これ以上不要に増やさない」という視点を持つことです。
2.妊娠中の体重管理がうまくいかない時はどうすればいいですか?
まずは、自分を責めないことが第一です。ホルモンバランスや体調によって、体重が増えやすい時期もあります。「毎日完璧にコントロールしよう」と思うと、それがストレスとなり、かえって過食につながることもあります。
そんなときは、体重計の数字に固執せず、「最近の食生活どうだったかな?」「疲れがたまっていないかな?」と振り返る時間を持ちましょう。可能であれば、助産師や管理栄養士に相談するのもおすすめです。体重管理は一人で抱え込むものではありません。
3.妊娠中に痩せるのはなぜですか?
「妊娠中なのに体重が減っている」というケースもあります。代表的な原因が、つわりによる食欲低下です。特に妊娠初期は、食べたくても食べられず、自然と体重が落ちてしまう人も少なくありません。
一時的な体重減少であれば大きな問題にはなりませんが、体重が数キロ単位で減り続けたり、水分さえ摂れないほどのつわりが続く場合は、「妊娠悪阻(にんしんおそ)」と呼ばれる状態の可能性もあります。その場合は、早めに医療機関を受診し、必要な処置を受けるようにしましょう。
まとめ
妊娠中の体重管理は、「太らないように頑張る」ことではありません。本質は、自分の身体と赤ちゃんの健康を守るために「必要な増加」と「過剰な増加」を見極めることにあります。
確かに、思い通りにいかない日もあるでしょう。つわりや体調の変化、気分の浮き沈み…それらすべてが妊娠というプロセスの一部です。そのなかで、ご自身の身体の声に耳を傾け、無理なく続けられる工夫を少しずつ取り入れていくことが、最も確実で、長く続けられる方法です。
そして何より大切なのは、「体重」そのものに振り回されすぎないことです。数字はあくまで“指標”であって、あなたの価値を測るものではありません。「今日はちょっと増えたな。でも、明日からできることをやってみよう」。そんなふうに、自分を肯定しながら前に進めることが、健やかな妊娠生活につながるでしょう。
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