
妊娠中は、口にするものがお腹の赤ちゃんにどんな影響を与えるのか気になりますよね。
甘くてほっとするココアも「飲んでも大丈夫?」「カフェインや糖分は平気?」と、不安を抱く方もいるかもしれません。
この記事では、妊婦がココアを飲む際に気をつけたいことを解説します。成分ごとの注意点と毎日の目安、取り入れやすい他のおすすめ飲料もまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
妊婦はココアを飲んでも問題ない?
結論として、妊娠中にココアを楽しむこと自体は基本的に問題ありません。ココアにはカフェインやポリフェノールなど、注意すべき成分は含まれますが、過剰摂取を避ければ赤ちゃんへの影響は小さいと考えられます。
ただし、メーカーによっては「医師に相談のうえお召し上がりください」と案内している場合もあります。体調やかかりつけ医の指示を参考に、無理のない範囲でココアを楽しみましょう。
妊婦が注意すべきココアに含まれる成分
ココアをためらう一番の理由は、カフェインが赤ちゃんに影響するのではと心配する方が多いからです。また「ポリフェノールがよくない」という情報を目にして、不安になる方もいるかもしれません。
ここでは、妊娠中に気をつけたいココアの主な成分と、その付き合い方をわかりやすく解説します。
カフェイン
妊娠中は、カフェインの代謝スピードが通常よりもゆっくりになる1)ため、摂りすぎると赤ちゃんの発育や出生後の健康に影響を及ぼす可能性が指摘されています2)。
ココアに含まれるカフェイン量
ココアはカカオ100%の「純ココア(ピュアココア)」、砂糖や脱脂粉乳などを混ぜた「調整ココア」があります。純ココア粉末1杯分(約5g)をお湯に溶かして飲むと、カフェインは10mg程度とされます)。これはコーヒー1杯の約1/6に相当します。調整ココアにおいては、含まれるカフェインの量はもっと少なく、ごくわずかです。
カフェインの合計摂取量に注意
一般にカフェインの摂取量は「1日に400mg」以下が目安です。ただし、妊娠中や授乳中、妊娠を予定している方はこれより少ない量となります。WHO(世界保健機関)やカナダ保健省では「1日300mg以下」、欧州食品安全機関は「1日200mg」を推奨しています2)。
コーヒー・紅茶・ほうじ茶など、カフェインを含む飲料を1日にいくつも飲んでいると合計摂取量が増えてしまうため、飲みすぎには注意しましょう。ココアのカフェイン量が少量であっても、1日のカフェイン摂取量を意識することが大切です。
流産・死産への影響
世界保健機関(WHO)は1日300mg以上のカフェイン摂取が、流産や死産のリスクにつながる可能性があるとしています。ただし、適量であれば過度に心配する必要はありません。
ポリフェノール
ポリフェノールとは、野菜や果実、穀物に含まれる苦味・渋み・色素などの成分です。抗酸化作用が強く、体をサビつかせる原因となる「活性酸素」の働きを抑えるとして期待されています。化学構造の違いによって種類が分かれ、体へのメリットもさまざまです。アントシアニン、カテキン、カカオポリフェノールが代表的です。
妊娠中にポリフェノールを過剰摂取すると、お腹の赤ちゃんに影響を及ぼす可能性があると指摘する研究もあります8)。これは過剰摂取が前提であるため、通常の食事や飲み物から摂る程度なら心配しすぎる必要はありません。
ココアに含まれるポリフェノールの量や、注意が必要な時期についてチェックしていきましょう。
ココアに含まれるポリフェノール量
ココアには、カカオポリフェノールが含まれています。純ココア(1杯(5g)あたりは約200mgです。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では摂取目安量は記載されておらず、健康面に対する機能性は研究段階です。
ココア摂取でとくに注意したいのは妊娠後期
妊娠後期にあたる妊娠8~10か月(28~39週)頃は、ポリフェノールに対する感受性が高まる時期とされています。国内の一部の研究では、過剰摂取によって赤ちゃんの動脈管が早期に閉じる「動脈管早期閉鎖(PCDA)」が生じたとの報告もあります9)。
動脈管とは、胎児期の血液の流れを支える重要な血管です。お腹にいるときは開いており、出生後まもなく閉じる仕組みになっています。しかし、妊娠中に何らかの影響を受けると狭くなったり、早く閉じたりすることがあるのです。
胎児の肺や心臓に過度な負担がかかり、心不全や肺高血圧といった重篤な状態を引き起こすことがあります。
ただし、ポリフェノールを「大量に継続摂取した場合」に報告されたケースです。少量摂取との関連は明確に示されていません。ココアを1〜2杯楽しむ程度であれば、過度に心配しなくてもよいでしょう。
糖質
意外と見落とされがちなのが、ココアに含まれる糖質の存在です。
純ココアは苦味が強いため、砂糖を加えて飲む方も多いでしょう。また、調整ココアにはあらかじめ糖分が含まれているため、知らないうちに糖質を摂りすぎる可能性もあります。
ココアに含まれる糖質の量や、妊娠中に糖質を摂りすぎた場合の影響について、詳しく見ていきましょう。
ココアに含まれる糖質量
ココアに含まれる糖質量は、商品によって異なります。調整ココアは糖質量が多いため、パッケージをよく確認して購入するとよいでしょう。
<ココア100gあたりの糖質量>
糖質の過剰摂取による影響
糖質の過剰摂取により、妊婦さんと赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
妊娠中は、胎盤から分泌されるホルモンの影響でインスリンの働きが弱まりやすく、さらに胎盤ではインスリンを分解する酵素も産生されています。インスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)になりやすく、その結果、血糖値が上がりやすい体質に変化するのです。
特に妊娠後期には高血糖になりやすく、一定の基準を超えると「妊娠糖尿病」と診断されることもあります。妊娠糖尿病は、「妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病にいたっていない糖代謝異常」と定義されています。お母さん・赤ちゃんともに、合併症を引き起こすリスクがあるため注意が必要です。
妊婦はココアを毎日飲んでもよい?どれくらいの量ならOK?
リラックスタイムにココアを飲みたくなる方もいるでしょう。飲む量や作り方に注意すれば、妊娠中でもココアを楽しめます。
妊娠中に適したココアの量や、身体にやさしい飲み方の工夫についてご紹介します。
毎日1杯~2杯であればOK
ココアに含まれるカフェインやポリフェノールの量をふまえると、妊娠中でも1日1〜2杯程度であれば、過度に心配する必要はないといえます。
不安がある場合は、かかりつけ医に相談し、ご自身に合った飲み方を見つけてみてください。
純ココアから手作りするのがおすすめ
調整ココアには砂糖が多く含まれているため、糖質の摂りすぎに注意しましょう。できるだけ純ココアを使って自分で作るのがおすすめです。自分の目で量を確認できるため、砂糖の摂りすぎを避けられます。
手軽に飲みたい場合は、調整ココアでもかまいません。カロリーや糖質に注意して、適量を飲むようにしましょう。
ココアに含まれる、妊婦が摂取したい栄養素
ココアは、甘い味で気持ちを満たしてくれるだけでなく、栄養面でも優れた飲み物です。実は、妊娠中に積極的に摂りたい栄養素が多く含まれています。
ココアに含まれる代表的な栄養素と、それぞれが妊娠中にどう役立つのかについて詳しく解説します。
食物繊維
妊娠中に不足しがちな成分のひとつは「食物繊維」です。ココアには食物繊維も含まれており機能が注目されるときもあります。
妊娠中にすっきり感がないときは、主に以下の要因が考えられます。
- 黄体ホルモン(プロゲステロン)の増加により、腸のぜん動運動が抑えられる
- つわりによる水分不足や食物繊維の摂取量減少
- 運動不足になりやすい
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると11)、妊婦を含む女性は1日あたり「18g以上」の食物繊維の摂取が推奨されています。
適度にココアを取り入れることで、不足しやすい食物繊維を補う助けになるでしょう。
鉄
ココアに含まれる「鉄分」は、妊娠中の女性にとって欠かせない栄養素のひとつです。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」による妊娠中の鉄の推奨摂取量は以下のとおりです。
- 妊娠初期:8.5~9.0mg/日
- 妊娠中期〜後期:14.5~15.0mg/日
妊娠中は、お母さんの体の循環血液量増加により、赤血球量が増加します。また、赤ちゃんや胎盤への鉄の補給のために、通常より多くの鉄分が必要となります。日頃から意識して鉄分を補うことが重要です。
ココアにはもともと鉄分が含まれており、中には鉄分を強化した商品も販売されています。
甘いものを控えながら、鉄分補給の手段として取り入れてみるのもよいでしょう。
マグネシウム
ココアには、妊娠中に積極的に摂りたい「マグネシウム」も豊富に含まれています。
マグネシウムはミネラルの一種で、骨や歯の形成や代謝やエネルギー産生、筋肉や神経の働きに関わる栄養素です。
妊娠中は、赤ちゃんの発育やお母さんの健康維持のために、必要量が通常より増加します。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、妊婦さんは1日に「320~350mg」のマグネシウムを摂取することが推奨されています。
ココアを適量取り入れることで、甘いもので気持ちを満たしながら、マグネシウム補給にもつながります。
カルシウム
ココアには「カルシウム」も含まれています。
カルシウムは、妊婦さんの体調維持や赤ちゃんの骨や歯の形成に欠かせない栄養素です。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、1日あたり「650mg」を推奨しています。
しかし、日本人女性はカルシウムが不足しやすいとされています。日頃の食事にプラスしてココアを利用すれば、カルシウムを補給でき、妊娠中の栄養管理に役立ちます。
妊婦とココアにまつわるよくある質問
妊娠中は、お腹の中の赤ちゃんを守るために、さまざまなことに気を遣うものですよね。ここからは、妊婦とココアにまつわるQ&Aをまとめます。妊娠中の摂取に配慮が必要な飲み物や、おすすめの飲み物についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
Q. 寝る前にココアを飲んでもよい?
ココアを飲むタイミングは、できるだけ日中が望ましいです。寝る前は控えましょう。
ココアに含まれるカフェインには、覚醒作用や利尿作用があり、飲む時間が遅くなると、眠りが浅くなったり途中で目が覚めたりする可能性があります。
とくに妊娠中は、ホルモンバランスの変化によって、体調が変わりやすくなり、睡眠が不安定になりやすいです。飲むタイミングには注意しましょう。
Q. 妊婦がココア以外に気をつけた方がいい飲み物は?
ココア以外にも、カフェイン量に注意したい飲み物はいくつかあります。代表的な飲み物のカフェイン量は以下のとおりです。
(出典:食品中のカフェイン|食品安全委員会)
カフェイン入り飲料以外にも、妊娠中に避けたほうがよい飲み物があります。
- お酒:胎児性アルコール症候群のリスクがある
- ハーブティー:子宮収縮作用のあるハーブもある
- ルイボスティー:ノンカフェインではあるものの、ポリフェノールが多いため、過剰な摂取は避けることがおすすめ
飲み物選びに迷ったら、医師や助産師に相談しましょう。
妊娠中の水分摂取に適しているのは、ノンカフェインの飲み物です。
- 水(ミネラルウォーター)
- 麦茶
- 牛乳
- 豆乳
- 無糖の炭酸水
- カフェインレスコーヒー
体を冷やさないように、常温または温めて飲むとよいでしょう。妊娠期は、飲み物選びもストレスになりがちですが、「完全にNG」ではなく「量や成分に注意して楽しむ」意識を持つと気持ちが楽になります。
ココアを飲んで心配なときは相談してみて
ココアは基本的に妊娠中でも楽しめる飲み物です。
妊娠中に不足しがちなミネラルや食物繊維などの栄養素も含まれています。摂取量に注意しながら、リラックスタイムのひとときに取り入れてみてください。
ただし、1日に何杯も飲んだり、カフェインを含む他の飲み物と重ねて飲んだりすると、過剰摂取につながる恐れがあります。糖質の摂りすぎにも注意が必要です。
「飲んで本当に大丈夫かな?」と不安を感じる場合は、かかりつけ医や医療スタッフに相談してみてくださいね。
参考文献
1)Knutti R, Rothweiler H, Schlatter C. Effect of pregnancy on the pharmacokinetics of caffeine. Eur J Clin Pharmacol. 1981;21(2):121-126. doi:10.1007/BF00637512.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7341280/
2)厚生労働省. 食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170477.html
3)文部科学省. 日本食品標準成分表 2015 年版(七訂) 1-0216 し好飲料類(正誤表9反映). 2017.
4)日本助産学会. 日本助産学会誌 第33回学術集会抄録集. 日本助産学会誌. 2019;33(Suppl):1-183.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjam/33/Supplement/33_1/_pdf/-char/ja
5)James JE. Maternal caffeine consumption and pregnancy outcomes: a narrative review with implications for advice to mothers and mothers-to-be. BMJ Evid Based Med. 2021;26(3):114-115. doi:10.1136/bmjebm-2020-111432.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8165152/
6)Okubo H, Miyake Y, Tanaka K, Sasaki S, Hirota Y; Osaka Maternal and Child Health Study Group. Maternal total caffeine intake, mainly from Japanese and Chinese tea, during pregnancy was associated with risk of preterm birth: the Osaka Maternal and Child Health Study. Nutr Res. 2015;35(4):309-316. doi:10.1016/j.nutres.2015.02.009.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25773355/
7)国立成育医療研究センター. 低出生体重による出生は心血管疾患や生活習慣病リスクを増加 ~日本初!出生体重と成人後期の生活習慣病の関連が明らかに~. プレスリリース. 2023 Nov 21.
https://www.ncchd.go.jp/press/2023/1121.html
8)加藤 憲一; 宮沢 篤生; 高瀬 眞理子; 東 みなみ; 大塚 康平; 江畑 晶夫; 寺田 知正; 長谷部 義幸; 清水 武; 水野 克己. ポリフェノール含有飲料による動脈管早期閉鎖が疑われた1例. 昭和学士会誌. 2023;83(6):373-379.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/83/6/83_373/_pdf
9)林 直哉. 妊産婦におけるポリフェノールの摂取状況. 日本微量栄養素研究会第38回学術集会 講演要旨集. 2021:14.
http://www.jtnrs.com/sym38/14.pdf
10)永岑 光恵, 斉藤 哲, 岡林 秀樹, 金 吉晴. 妊娠期の母親のストレスが新生児の出生体重に及ぼす影響 ―唾液中コルチゾール値による予備的検討―. Pacific J Paediatr Allergy. 2007;71(0):2AM098. doi:10.4992/pacjpa.71.0_2AM098.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pacjpa/71/0/71_2AM098/_article/-char/ja/
11)厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書.
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf
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