死を覚悟した妊娠経験がやりたいことの背中を押した(前編)

キャリアとライフイベントのターニングポイントでどのように決断し、自分らしい人生を設計したかを深掘りする連載。読者が「自分らしい人生の設計図」を描くヒントを提供。

死を覚悟した妊娠経験がやりたいことの背中を押した(前編)

最終更新日:
2025-11-21
公開日:
2025-11-05

いつ産むか。どう育てるか。働くかどうか。

女性にとって、子どもを持つことは、「持つかどうか」というひとつの決断ではありません。この連載では、子どもを持つ女性に、妊娠・出産によりキャリア、人生、やりたいこと、パートナーとの関係について何が変化したのか、どう決断したのかを描きます。

vol.1に登場いただくのは、"服が循環する場づくり"をテーマに、「こども服の交換会」や服のアップサイクルイベントを企画する「circle of closet」を主催する新井麻紀さん。現在6歳と1歳の子どもを持つ母親でもある新井さんに、さまざまなお話を聞きました。

※本記事にはメンタルの不調に関する内容が含まれます。

「早くお母さんに」と思っていた私にとって、27歳、初めての妊娠はわくわくするニュース。

──まずは、新井さんがもともとお持ちだった「結婚観」「家庭観」などを教えていただきたいです。ティーンエイジャーの頃に持っていたイメージはありますか?

今振り返ってみると自分でも意外な感じがしますが、「早く結婚してお母さんになりたい」と思っていました。子どもの頃から「お母さん」になることに憧れていました。私には3歳上の姉がいて、姉に子どもが産まれたことを近くで見ていたので憧れがありました。「結婚と子どもを持つことは、当たり前にセット」という感覚でした。

──ということは、「絶対子どもを持とう」と思って結婚を?

そうですね。姉に赤ちゃんがいるのがとても幸せそうに見えて、いいないいな、と思っていました。私とパートナーは大学1年生の時からの長い付き合いだったこともあり、同年代に比べて早く結婚して子どもを持ちたいという思いが強かったのかもしれません。結婚した時は、25歳でした。

──結婚した時は子どもを持つことを心に決めていたんですね。

はい。でも、年齢が若いこともあり、ブライダルチェックをしたり計画的に妊娠することまでは考えていませんでした。「1年くらい妊娠しなかったら、検査をしてみようかな」と思っていたくらいで、自然の流れに任せようと思っていました。

一方で、結婚したばかりの頃は具体的に何人子どもを持とうとか、それがいつなのかなどはあまりイメージできていませんでした。私に姉がいてとても助けられていたので、きょうだいがいたらいいのかな、と思っていたくらいでしたね。

──赤ちゃんを妊娠された時、どんなお仕事をしていましたか?

新卒で入社した、ファッション系商業施設の運営をする会社で5年目になった時でした。仕事にも慣れてきていたタイミングでもあり、妊娠はわくわくするニュースでした。この時は、妊娠・出産によるキャリアへの不安はあまり感じていませんでした。赤ちゃんができてとても嬉しかったし、新しい経験ができることを楽しみにしていました。

一方で、「赤ちゃんができたから、ライフイベントを一歩リードだ」という感覚もありませんでした。会社の同期は定期異動をして、新たな環境で頑張っているのに、自分だけ産休に入るのが遅れをとっている感覚がありました。

キャリアが止まる。置いて行かれてしまう。入院にまでなった壮絶な妊娠期間

──妊娠中は、とても大変だったとか。

妊娠して喜んだのもつかの間、つわりで何も食べられなくなってしまいました。体重は5キロくらい落ち、点滴なしでは栄養が足りない状態になってしまいました。ついには入院することになり、毎日ベッドで寝ているだけの日々。気持ち悪くて、座っていられない。ずっと船酔いしているような状態でした。まだ産休には入れないので、休職しながら入院することに。この時はじめて「キャリアがストップしてしまう」「置いて行かれてしまう」と焦りを感じました。入院中は何もできないので、ラジオをずっと聞いていましたね。1日がとても長かったのを覚えています。

──入院後から産休に入るまでは、復職されたのですか?

入院時より体調は良くなったものの、無理をして仕事に行っていました。上司は配慮してくれていましたが、当時の仕事はお客さま対応などの現場仕事が多かったので、私自身が会社に行きたいという気持ちが強かったんです。食べると少しつわりがおさまるので、バックヤードで隠れるようにして何かを食べていたのを覚えています。

この時は「こんなに辛いなんて聞いてなかった」という悲しみや怒り、辛さでいっぱいでした。特に、つわりはほとんどない人もいるにも関わらず自分だけ酷かったこと、病気ではないため休職すると無給になってしまうことがやりきれませんでした。

妊娠・出産を経て、主体的に変化した働き方。なかばムキになって働いた

──赤ちゃんが生まれた後は、どんな気持ちの変化がありましたか?

赤ちゃんの顔を見たら、本当に愛おしくて、可愛くて、幸せが込み上げてきました。すぐに授乳が始まって大変ではありましたが、出産により体調が悪くなることはありませんでした。

長女が0歳の4月に保育園へ入園し、産後1年くらいで復職しました。

福利厚生の充実した会社だったので、産休・育休をとることは珍しくありませんでしたが、内心は「早くキャリアアップしなきゃ」という焦りでいっぱい。夫や周りから驚かれるほど仕事に打ち込んでいました。もともと興味があったサステナビリティに関する社内プロジェクトに手をあげたり、上司にかけあって希望部署に異動したりと精力的に動いていました。中でも変化を感じたのは、働き方が主体的になったことです。妊娠中に感じていた焦りと、子育てによる時間の制約がそうさせたんだと思います。

──子育てをしながらバリバリ働くのは簡単なことではありませんよね。

当時の私はそれを超えるくらい、気合いが入っていました。ちょっとムキになっていたところもあるのかもしれません。最初は時短勤務を選んでいたのですが、関わるプロジェクトで私1人の稼働を「一人工(いちにんく)」と数えられていないのではないかと悔しく感じてしまい、無理を押してフルタイムに戻しました。その結果、やっぱり大変になってしまったんですが……当時の私にとってはそうやってあがくことがとても大切だったんです。

──赤ちゃんが大きくなるまでは仕事をストップする女性もいる中で、新井さんが仕事に戻ったのはなぜですか? パートナーの理解もあったのなら、ゆっくり子育てをする選択肢もあったように感じます。

うーん。大学時代の同級生がバリバリ働いている女性が多かったこと、社会と関わることが私にとって大切であることが大きな理由だと思います。私は1日中赤ちゃんと向き合っていると煮詰まってしまうタイプで、社会と繋がっている方が自分らしくいられるなと感じました。

少しずつ芽生えてきた「自分のやりたいこと」への気持ち

──出産後、しばらくしてIT系のスタートアップに転職されています。ここではどんな心境の変化があったのでしょうか?

就業時間をフルタイムに戻してみたは良いものの、出社してフルタイムで働くことが体力的にも時間的にも大変で「これを続けていくのは厳しいな」と感じていました。パートナーはIT系スタートアップに勤務していて、その様子に「働き方が私にも合いそうだな」と思いました。仕事の難易度は高いけれど、制度が柔軟でフルリモートやフレックスタイムで働けるのが子育てとマッチしそうだと感じました。

当時、ファッション系商業施設のオンラインショップ事業に携わっていたので、オンラインショップサービスを提供するスタートアップに転職しました。アパレル業界において、大量に服が生産されたり、セールが頻繁に行われたりしていることに疑問を感じ、ファッションのサステナビリティに興味が湧いてきたのもこの頃です。

第一子の壮絶な妊娠期間と出産を経て、いよいよキャリアに打ち込み始めた新井さん。子育てをしながらスタートアップで勢いよくキャリアを再スタートさせました。一方で、家庭の中では二人目の子どもについての話が持ち上がり、気持ちが再び揺れ動きます。後編では、第二子を持つことを決心するまでと、その経験が与えてくれたことについてお話を伺います。

プロフィール

新井麻紀 / circle of closet 代表
"服が循環する場づくり"をテーマに、「こども服の交換会」や服のアップサイクルイベントを企画。6歳と1歳の子をもつ母。
早稲田大学商学部を卒業後、ファッション系商業施設の運営会社に入社。店舗運営やオンラインショップ事業に従事し、アパレル業界の大量生産・消費のに疑問をもつように。
その後、IT系スタートアップ企業にて新規事業企画、フリマサービス企業にてマーケティングを経験。2025年に独立し、サステナブルファッションに関する情報発信や、日本の繊維工場にあるデッドストック生地を活用した服づくりを行なっている。

 Instagram: @circle_of_closet

取材・文/ 出川 光

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