死を覚悟した妊娠経験がやりたいことの背中を押した(後編)

キャリアとライフイベントのターニングポイントでどのように決断し、自分らしい人生を設計したかを深掘りする連載。読者が「自分らしい人生の設計図」を描くヒントを提供。

死を覚悟した妊娠経験がやりたいことの背中を押した(後編)

最終更新日:
2025-11-24
公開日:
2025-11-19

いつ産むか。どう育てるか。働くかどうか。

女性にとって、子どもを持つことは、「持つかどうか」というひとつの決断ではありません。この連載では、子どもを持つ女性に、妊娠・出産によりキャリア、人生、やりたいこと、パートナーとの関係について何が変化したのか、どう決断したのかを描きます。

前編に続きvol.1に登場いただくのは、"服が循環する場づくり"をテーマに、「こども服の交換会」や服のアップサイクルイベントを企画する「circle of closet」を主催する新井麻紀さん。前編では、一人目の妊娠で主体的に変化したキャリア観や、入院まで経験した壮絶な妊娠期間についてお話を聞きました。後編では、二人目を持つ決断から出産、仕事を辞めて活動に集中できた理由などのお話を聞きます。

※本記事にはメンタルの不調に関する内容が含まれます。

ながく踏み出せなかった二人目を持つこと

──前編では、壮絶な妊娠期間のこと、その後キャリアに打ち込んでいくまでのことを伺いました。一人目の赤ちゃんを産んでから、二人目を妊娠されるまで4年間あいていますが、このときのことを教えてください。

一人目を出産してからは、前回お話しした通り、なかばムキになって仕事に打ち込んでいました。スタートアップに転職して、「マネージャーになろう!」と昇進も見据えて努力を続けていました。プライベートでは、サステナブルファッションに興味があることがわかってきて、その勉強もはじめていました。それに加え、子育ても行っていたので、毎日それはそれは忙しくて。二人目の子どもを持つかどうかすごく悩んでいました。

このままキャリアを積めば、昇進も見えてくる。一方で、私と同じように長女にもきょうだいをつくってあげたい。しかし、いざ二人目を持つことを具体的に考え始めると、あの壮絶な妊娠期間の辛い思い出が蘇ってきて、「あれをまたやるのか。嫌だな」と反射的に思ってしまうのです。

パートナーとは元々、子どもがたくさんいたらいいねという話をしていたこともあり、お互いに二人目が持てたらいいという気持ちがあることはわかっていました。それでも、私は妊娠期間が本当に辛かったから、次の妊娠をすぐには考えられない...我が家では第二子の話はしばらく話題にせず、数年が経ちました。

気持ちに変化が訪れたのは一人目の出産から3年ほど経った頃です。長女も4歳になろうとしていて、「二人目を望むかどうかを決断するならそろそろかな」と思い始めました。

──一方で、心の中には第一子の時の辛い妊娠期間の思い出があるのですよね。どのように二人目の子どもを持つことを決心したのでしょうか?

キャリアについては、当時勤務していた会社にお子さんのいる女性マネージャーが複数いたので、「自分にもできるかも」とあまり不安に思いませんでした。産休が明けたらまた仕事を頑張れば昇進を目指せると思わせてくれました。

最後の後押しになったのは、「きょうだいをつくってあげたい」という気持ちでした。私も夫もいなくなった後に、子どもが生きていくことを考えたとき、きょうだいがその支えになるのではと考えたのです。

一人目の時を超えるひどいつわりで1ヶ月半の入院。死を意識するほど追い詰められた

──一人目の妊娠期間は、つわりがひどくとても辛い経験だったと伺いました。二人目の妊娠は、どのようなものだったのでしょうか。

それが……一人目の時よりもひどいつわりに襲われてしまいました。一人目の時と同じように、何も食べられず、どんどん痩せてしまい24時間点滴をしなければ危険な状態に。妊娠して1ヶ月で休職し、1ヶ月半の入院。起きていることも座っていることも、本を読むこともできず、また病院のベッドで寝ているだけの生活。しかも、この時は入院期間が長かったので、生きるのに必死で他のことをあまり考えられませんでした。退院後も仕事は休職させてもらい、そのまま産休に突入。

一人目を妊娠していた時は、「仕事をどうしよう」という気持ちがありましたが、もうそこまで頭が回らなくて。ありがたいことに自分がやっていた仕事はチームメンバーがやってくれていたので、その日その日を生きることだけ考えていました。

この時は……道を歩いている人を見るだけで「元気でいいなあ」と思ったり、つわりがひどいことやずっと入院していることでメンタルも弱って「もう死んでしまったほうが楽なんじゃないか」と思うほどでした。自律神経が乱れてしまい、ずっと心がざわざわしていました。この時支えになったのは、話を聞いてくれた家族や友人。今でも心から感謝しています。

──そんなに壮絶な妊娠期間だったのですね……。二人目の妊娠・出産をどう振り返っていますか?

妊娠期間は今でもトラウマになるほど壮絶な経験でしたが、それでもこの子たちを産んでよかったなと思っています。毎日子どもたちの寝顔を見ると、「この子たちがいれば大丈夫だ」となんだか勇気づけられるんです。

人生観を変えてくれた二人の妊娠・出産。湧き上がった諦めない気持ち

──新井さんは、二人目を出産してすぐに別の企業に転職し、さらにその後まもなくして独立されていますよね。この決断の背景には何があるのでしょうか。

オンラインショップサービスを扱う仕事を通して、自分の好きなことに情熱を注いでいる事業者の方に出会ったり、プライベートでも、自身のやりたいことを見つけるオンラインスクールに参加したタイミングでした。服の循環に関わることをしたいという気持ちがどんどん強くなり、子ども服の交換会やアップサイクルのイベントを行う「circle of closet」の活動を始めました。

その活動と並行して二人目の出産直後、自身の活動にさらにつながる会社に転職したいと思い転職活動を開始。産後1年くらいのタイミングで転職したのですが、「circle of closet」 の活動でやりたいことが増えていくなかで、それ以外に時間を使うことが惜しいと思うようになってしまい……。二人目の子を出産して、自分が自由に使える時間がさらに限られていたこともあると思います。「circle of closet」の活動に注力したいという衝動を抑えられず、半年程で辞めることにしました。

振り返ってみると、最初の出産が同年代よりも早かったことによる焦り、妊娠中に思うように動けなかった経験から「何がなんでも好きなことをやる」という決意のようなものが強かったのだと感じます。特に二人目の妊娠中に死を覚悟するような経験をして、「人生は一度きりだ」ということを身をもって実感していたから、大胆な決断ができたのだと思います。独立を選んだことで、今まで思いつかなかったような活動を行うことができ、今はとても充実しています。

やりたいことをやる。今は人生のボーナストラックだから

──頭でわかっていても、そんな大胆な決断ができるのはすごいことですよね。現在はどのような活動を行っているのですか?

服を交換したりアップサイクルしたりするイベントを主催することはもちろん、他のイベントに出店してアップサイクルにまつわるワークショップをすることもあります。また、日本各地の繊維産地を訪ねて、工場で余ってしまっている生地を買い取らせていただき、服にする試みも始めました。今は愛知県知多市の知多木綿の残布を使った子ども服の試作をしていて、この間サンプルができたんですよ。子どもが1歳から6歳まで使えるようなデザインを考えたり、新たな挑戦をしています。

でも、「まだまだアクセルを踏みきれてない」と感じることばかりです。育児によって稼働できる時間が限られてしまうので、なかなか思うようなスピード感が出ない。頭の中にやりたいことはたくさんあるけれど、追いついていないことがもどかしいです。

──なるほど。今度は育児との両立という新しい挑戦をしているんですね。

パートナーはとてもサポーティブで理解をしてくれますが、出張やイベント出店の時には調整をお願いして負担をかけることもあるし、周りの方に「いろんなところに行っているけれど、子どもは大丈夫?」と心配されることもあります。子どもはまだ小さいので、「夜にママがいないのはイヤ」と泣いてしまうこともある。けれど、私がやりたいことに全力投球している姿やその結果は、いつか子どもに良い影響を与えると信じて今の活動をしています。子ども自身が「やりたいことをやろう」と思えるようになったり、子どものキャリアの選択肢を広げるきっかけになったりしたらいいな、って。

──これを読んでいる方の中には、自分のやりたいことと、子どもを持つことのバランスで悩んでいる人も多いと思います。新井さんからアドバイスはありますか?

そうですね。私自身も悩んでいる一人ではあるのですが、諦めないで一緒にやっていきましょう! と手を取り合いたいです。よく「私が夜いなかったら、子どもは寂しいのかな」と想像して「もう出張はやめようかな」と思うことがあるのですが、帰宅して夫から子どもたちの楽しそうな写真を見せてもらったり(笑)、想像してもわからないことってたくさんあるから、まずやってみないとわからないなと思ったりするんです。だから、やってみたいことがあったら、ささやかなことでも一緒に踏み出してみましょうと声をかけたいです。

一度は死を覚悟した妊娠期間を経験したからこそ、今は「人生のボーナストラック」を生きているような気持ち。オマケでもらった時間だと思うと、自分の気持ちにより誠実に生きていきたいと思うんです。もちろん状況は人それぞれですが、「少しでも自分のやりたいことを大事にしてみよう」と思えたら、子どもを持つこととやりたいこと、その両方を少しずつ叶えていける気がします。

プロフィール

新井麻紀 / circle of closet 代表
"服が循環する場づくり"をテーマに、「こども服の交換会」や服のアップサイクルイベントを企画。6歳と1歳の子をもつ母。
早稲田大学を卒業後、ファッション系商業施設の運営会社に入社。店舗運営やネットショップ事業に従事し、アパレル業界の大量生産・消費のに疑問をもつように。
その後、IT系スタートアップ企業にて新規事業企画、フリマサービス企業にてマーケティングを経験。2025年に独立し、サステナブルファッションに関する情報発信や、日本の繊維工場にあるデッドストック生地を活用した服づくりを行なっている。

 Instagram: @circle_of_closet

※本記事の内容は取材対象者個人の経験に基づくものであり、所属・関係組織の見解を代表するものではありません。

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