40歳ではじめた不妊治療。知っておきたかった予算や治療のこと(前編)

「プレ妊活」をテーマに、「もしあの時に戻れるなら伝えたいこと」や「知っておきたかったこと」を深掘りする連載。将来後悔しないためのリアルなヒントを提供。

40歳ではじめた不妊治療。知っておきたかった予算や治療のこと(前編)

最終更新日:
2025-11-21
公開日:
2025-11-03

不妊治療をはじめる時、ほとんどがその“初心者”です。パートナーと二人で、あるいはたった一人でこの難しいはじめての経験に向き合っていると、クリニックでの治療でもなく、友達からの励ましでもなく「私の場合はこうだった」「前にこれを知っていることができたら」という経験者のリアルなアドバイスが欲しい瞬間があるはずです。名前は仮名、顔も明かさないからこそ話せる、一足先に不妊治療をした方からのタイムカプセルのような経験談。全てが当てはまらなくても、不妊治療をはじめる前、あるいは真っ只中のひとつのガイドに役立ててください。

vol.1でご登場いただくのは、40歳から42歳まで不妊治療を行い、男の子を出産したAさん。前編では、最初のクリニック選びから、パートナーのこと、予算のこと、そして不妊治療専門クリニックでの治療開始までのお話を聞かせていただきます。

「自分もいつか子どもを持つんだろうな」。妊娠の難しさを知らなかった30代前半まで

「私が中高生時代を過ごした昭和は、子どもを持つのがなんとなく当たり前の社会だった」と語るAさん。現在は関東の海の見える街に住み、仕事をしながら育児を楽しんでいます。20代から30代は仕事に熱中しながらも「いつか子どもを」と思いながらその夢を温めていました。まずは不妊治療をはじめる前のことについて伺います。

「『自分もいつか子どもを持つんだろうな』となんとなく思っていました。しかし、若い頃の妊娠・出産に関する教育は、どちらかというと『妊娠しない』ことに重きが置かれており、避妊の方法は知っていても妊娠するための知識はほとんど持っていませんでした。

あれくらい避妊のことを教えるのだから、妊娠はすぐにできてしまうものだと思っていたんです。不妊治療を行えばなおのこと、すぐ妊娠できるとどこかで思っていました」

Aさんが子どもを持つことを現実的に意識しはじめたのは、35歳の頃。27歳から35歳の間交際していたパートナーとの間に子どもを望んでいましたが、相手のライフスタイルから諦めざるを得ず、それが別れの原因にもなったのです。

「そのパートナーと付き合っている間、なにかあるごとに『私には子どもがいないから』とネガティブな気持ちになることがたびたびありました。周りが子どもを持って楽しい人生を送っているように見えるのと自分を比べてしまって、『普通の会社員で、子どももいない私なんて』というコンプレックスがどこかであったのだと思います。そう思うということは、やっぱり子どもが欲しいんだな、と」

ぼんやりとした「子どもが欲しい」という気持ちが徐々に輪郭を帯びてきて、気持ちが決定的になったことでそのパートナーとお別れ。「やっと一人になれた!」と思った時に出会い結婚したのが、今のパートナーの方です。

「『やっと子どもを持てるかも』と舞い上がる一方で、40歳という年齢を考えると無理かな、という気持ちもありました。仕事の関係で海外の方と会うことが多く、養子を迎えている友人もいたため、そういう選択肢も頭の中にありました。パートナーは子どもを持たないことも含めて全ての選択肢に前向き。まずは不妊治療をしてみたいという私の思いに賛成してくれました」

★卵子の状態は年齢を重ねるとともにどんどん悪くなるので、不妊治療は早くはじめたほうがいい。予算が合うのなら、卵子凍結をしておけばよかった。

「不妊」で検索して、近くのクリニックを「なんとなく」選んだ。不摂生ばかりの生活習慣を後悔

Aさんとパートナーの方がまず訪れたのは、自宅近くの総合内科。インターネットで検索してみたところ、最も近い内科の診療項目の中に「不妊治療」が含まれており、目に留まりました。

「当時引越しをしたばかりで、周りに友達も少なく頼れるのはインターネットの検索だけ。周りに不妊治療の経験がある人も一人いるくらいで、細かいことを気にせずまずは近くのクリニックに行きました。簡単な触診と血液検査を行い、漢方を処方されました。そのクリニックで、パートナーの方の精液検査も行いました」

ここで調べたのは、LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、プロラクチン(排卵をコントロールするホルモン)、TSH(甲状腺刺激ホルモン)。結果はLHがやや高め。

しかし、このクリニックの医師にこの結果やこれからの不妊治療の指針などについて質問することはできませんでした。

「なんでもズバズバ言う先生で、物おじして検査結果について詳しく聞くことができませんでした。この時言われたのは『年齢に対して数値が悪いねえ』『結果が良くないねえ』といったもので、今でもこの検査項目の何がどう悪かったのかがわからないままです。曖昧な検査結果の伝え方にも、心をえぐられるように傷つきました。これまで仕事ばかりしていて自分の体を労わってこなかったり、ジャンクフードをたくさん食べていたことを反省し、遅まきながら食事に気をつけはじめました。」

しかし、一番ショックを受けていたのはパートナーの方だったのだそう。

「『精液検査の結果、量、運動率、分泌量全ての数値が基準値を下回っている』と言われとてもショックを受けて、その足で泌尿器科に行ったほどです。サプリメントを取り寄せて食事にもより一層気を使いはじめるようになりました。パートナーがそれくらい協力的だったことで、この時の不妊治療はまだどこか『楽しい二人の共同作業』という感覚だったと思います」

★子どもを望む・望まないに関係なく、体をいじめるような働き方や生活習慣はしないで欲しい。ジャンクフードを食べたり、ハードワークをしてストレスを溜めてしまったことを後悔。

専門クリニックに変更し、本格的な不妊治療スタート。決めた予算は300万円

検索で見つけた総合内科では、検査や漢方の処方が続いていました。この頃、パートナーの方が友人からアドバイスを受けたことで、クリニック選びに新たな展開がありました。それまでのクリニックでは精液検査のタイミングや検査結果の説明が不足していたこと、不妊治療の本格的な設備が整っていないことから、専門のクリニックを勧められたのです。また、Aさんは不妊治療に専念するため大きな決断を行いました。

「自宅から近いという理由で選んでいた最初のクリニックから、不妊治療専門のクリニックに変更しました。また、不妊治療に専念するため、それまで働いていた会社を退職しました。比較的ワークライフバランスの取れたイメージのある業界でしたが『私の代わりはいない』と思い切ってした決断でした。

不妊治療専門クリニックでは、私は高温期採血、クラミジア検査、甲状腺ホルモン、甲状腺抗体検査、排卵確認を行い、性病、排卵、卵子の数に問題がないことがわかりました。また、パートナーは改めて精液検査を適正な採取タイミングで行ったところ、『自然妊娠可能なレベル』との嬉しい結果が。

さらに別の日に卵管造影検査を行い、こちらも異常なし。卵管造影検査は痛みが強いというブログや口コミを見かけることも多く不安だらけでしたが、あっという間に終わったのでこれからの治療への不安が少し和らぎました。

不妊治療専門のクリニックにかかりはじめたこと、仕事を辞めたことで、不妊治療のおおまかな計画が頭の中で描けるようになってきました。当時持っていたイメージでは、期間は健康保険が適応される*43歳くらいまで。予算は、友人の「全部で270万円くらいだった」という経験談とお財布事情を考えて300万円くらいまで。パートナーが生活費を出してくれていたこと、不妊治療は私の提案だったことから、費用は私が持つことにしました」

*不妊治療の健康保険適応は、43歳未満の治療開始まで

★クリニック選びは大切。自宅近くでなくても、不妊治療専門クリニックに行ったほうがいい。

★スケジュールが不安定になったり、身体的な負担が増えるため会社を退職して良かった。治療に専念する環境を整えることができた。

★私の場合の予算は300万円くらい。いつか不妊治療の予定がある場合は、予算の準備やパートナーとの相談をしておくと安心。

胚盤胞移植のため、採卵の準備。不妊治療中はずっと違和感が続く。

検査を終えたAさんとパートナーの方にクリニックが勧めたのは胚盤胞移植でした。タイミング法や(カテーテルで子宮の中に精子を入れる)人工授精ではなく、(採卵を行い取り出した卵子に極細のガラス針で精子を入れる)顕微授精を行い、5〜6日の培養を行い細胞分裂が進んだ胚盤胞の状態にして子宮に戻す体外受精です。このため、Aさんははじめての採卵を行うことになりました。まずは、その準備から。

「生理3日目の診察を終え、その日から(排卵誘発剤の)クロミッド錠を朝・晩に1錠ずつ内服し、(FSH(卵胞刺激ホルモン)により卵子を育て、LH(黄体形成ホルモン)により排卵を促す)フェリング注射を1日置きに打ちました。副作用は少ないと言われている注射でしたが、私の場合はおなかの痛みや、気持ちの悪さを感じ、帰り道は休みながら帰宅しました。

不妊治療中は、ずっとこんな感じの違和感が続いていたので、仕事をしていなくてよかったなあとしみじみ感じました。採卵3日前、2日前には超音波による内診と、子宮の具合をみて注射を行い、いよいよ採卵日当日を迎えました」

★副作用が少ないと言われる薬でも、具合が悪くなることも。採卵前の注射は、スケジュールに余裕を持って。

不妊治療を本格的に開始したAさん。ここまでの段階では、パートナーの協力、仕事の調整、そして予算の捻出など不妊治療の基盤を整える大切さをお話しいただきました。さて、後編はいよいよ本格的に不妊治療を開始したAさんの出産に至るまでの体験をご紹介します。

取材・文/ 出川 光

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