不妊治療をはじめる時、ほとんどがその“初心者”です。この難しいはじめての経験に向き合っていると、クリニックでの治療でもなく、友達からの励ましでもなく「私の場合はこうだった」「前にこれを知っていることができたら」という経験者のリアルなアドバイスが欲しい瞬間があるはずです。名前は仮名、顔も明かさないからこそ話せる、一足先に不妊治療をした方からのタイムカプセルのような経験談。全てが当てはまらなくても、不妊治療をはじめる前、あるいは真っ只中のひとつのガイドに役立ててください。
vol.3でご登場いただくのは、31歳から33歳まで不妊治療を行い、女の子を妊娠 ・出産したCさん。現在は二拠点を行き来しながら仕事をこなし、子どもの受験勉強に奮闘しています。
前編では、Cさんが不妊治療を意識しはじめたきっかけや、パートナーとの向き合い方、病院選びから休養期間に至るまでの経緯についてお話いただきます。
不妊治療への心構えができていた私と、パートナーとの意識の差

学生のころは、「専業主婦になりたい」と友人たちに話していたCさん。自身が一人っ子だったことから、「子どもは2人、男の子と女の子が1人ずついたらいいな」と、漠然としたイメージを抱いていました。まずは不妊治療をはじめる前のことについて伺います。
「生理不順の改善のために20代半ばからピルを飲みはじめ、定期的に婦人科に通っていました。ピルの処方に伴い検査をしたところ、『多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)』との診断を受け、医師からも『妊娠しにくいだろう』とお話がありました」
当時のCさんは、仕事に打ち込みつつ、結婚や出産の時期を含めた明確なライフプランを思い描いてはいませんでした。しかし、診断結果から、「いつか子どもを持ちたいと思ったときには、何かしらの治療が必要になるだろう」と、心構えができていました。
「31歳で結婚したときには、パートナーと具体的なライフプランを立てていたので、子どもをつくることに関しても二人で擦り合わせをしました。自身が妊娠しにくい体であることは分かっていたので、パートナーにも『子どもをつくるならば、不妊治療のために病院に通いたい』と伝えました」
結婚して間もなく不妊治療を検討しますが、Cさんより5歳年下のパートナーとは不妊治療に対する意識の差を感じていました。
「パートナーの職場には、40歳で結婚して、その後すぐに妊娠・出産を経験した女性がいました。身近に起きた出来事とあってか、30代前半の私が不妊治療のために病院へ通うことに対し、さらに年の若いパートナーは『早いんじゃない?』と当初は懐疑的でした。
たったひとつの事例を取り上げて、『まだ大丈夫でしょう』と言ってくることにモヤモヤしていましたが、『子どもが欲しい』という思いは共通しており、不妊治療の費用を共同の家計から出すことや、パートナー自身も検査や治療に参加することには協力的だったので、腑に落ちない発言にも多少は目を瞑っていました。その後も不妊治療が続いたことを考えると、最初から完璧を求めなくてよかったなと思います」
★具体的なライフプランはなくとも、婦人科での検診は自身の体を知るために大事。症状を理解していれば、心構えができて早めに対策が取れる。
★パートナーからの理解は、最初から「完璧」を求めなくてよい。
通いやすい病院で初期検査を受け、治療方針を決める

いざ本格的に不妊治療をはじめるにあたって、Cさんはどのように病院を選んだのでしょうか。
「身近な妊活仲間が都心部の有名な不妊治療専門クリニックに通っていて、いろいろと評判は聞いていましたが、『とにかく予約が取りにくい』とも聞いていました。そのため、まずは通いやすい自宅近くの病院に行ってみようと最寄りで探しました。当時、私が住んでいた街には婦人科が多く、そのなかから不妊治療が受けられる病院を選びました」
妊娠しにくい原因がどこにあるのかを突き止めるため、一通りの初期検査を受け、その間に、タイミング法も並行して続けていました。
そして、検査の結果は……
「ホルモン検査や卵管造影検査、フーナーテスト(性交後検査)などの検査を受けましたが、結果として根本的な原因はわかりませんでした。
あらかじめ医師から、『検査をしても原因が判明しない場合がある』との説明は受けていましたし、私の気持ちとしては、目標である『妊娠』に向けて少しでも早く前に進みたかったので、タイミング法から人工授精にステップアップしていこうと治療方針を決めました」
また、不妊治療の初期検査ではCさんのパートナーも精液検査を受けることに。早くから不妊治療をはじめることに懐疑的だったパートナーですが、自身の検査にはどのような反応だったのでしょうか。
「パートナーは好奇心旺盛な人だったので、男性側がどのように精液検査を行うのか、初めての経験に興味津々でした。依然として治療の必要性には疑念があるようでしたが、私から病院での検査方法を詳しく説明するなど、うまく興味を引きながらポジティブに協力してもらいました」
★不妊治療の初期検査の結果、原因がわからないケースもある。
★パートナーの性格に合った方法で少しずつ理解を深め、協力を得ることができた。
心身への負担から、休養を決意。
心機一転して不妊治療に向き合うことができた

治療方針を定めたCさんは、その後も最寄りの病院に通いますが、医師とのコミュニケーションに少しずつ違和感を覚えはじめました。
「とにかく『妊娠すること』が私の目標だったので、そのために頻繁に病院へ通うこと自体には抵抗はありませんでした。しかし、仕事の都合上どうしても日程を調整できないタイミングがあり、それを医師に伝えると、『何のために不妊治療をしているの?』『やる気あるの?』と強い言葉で言われてしまいました。
『確かに治療が一番大事だよな』と思いながら、予定を調整して病院に通っていたのですが、学会の出張で医師側のスケジュールと私の検診が重なったときには日程を調整してもらえず、モヤモヤしました。
人工授精で治療を行っていくとなれば、今後はさらに通院の頻度も上がるはず。そのたびに、こちらの都合を考慮してもらえなかったり、高圧的な態度で診察を受けたりしては、精神的に持たないと感じ、転院を検討しはじめました。」
不妊治療に前向きだったCさんも、気づかないうちに少しずつストレスを溜め込んでしまったようです。
「初期検査から同時進行でタイミング法を行い、1件目の病院では3〜4回試みたのですが、妊娠には至りませんでした。医師との不和も相まって、『子どもは欲しいけれど、治療するのが嫌だな』と、心身に疲れが出はじめていました。見かねた母親から、『子どものいない人生も、それはそれでいいんじゃない?』と声をかけられるほどに、当時の私は思い詰めていたのだと思います。
そんなとき、懸賞でグアム旅行が当たったんです。『(一番の願いは妊娠することなのに)こんなところで運を使ってどうするんだ!』と、心から喜べずにいたのですが、パートナーから『一旦、不妊治療を休まないか』との提案を受けました。
私自身は、治療を休んでしまうことが遠回りのように感じてしまい、あまり前向きにはなれなかったのですが、かといってストレスがいっぱいの状態も心身によくないと考え、思い切って治療を数ヶ月休んでみることにしました」
グアム旅行から3〜4ヶ月、不妊治療をしない期間を設けたCさん。お休みを挟んだことで、不妊治療に対する心境に変化があったようです。
「グアム旅行はとても楽しかったです。日常から離れ、お酒を楽しみ、心身ともにリフレッシュできました。そして、旅行から数ヶ月間ゆっくりと休んだおかげで心機一転し、改めて不妊治療に前向きに取り組むことができました。
検討中だった転院についても、気持ちが切り替わったことで、『今度はより自分に合った病院を選ぼう』と積極的に情報収集を行い、ぴったりな病院と出会うことができました」
★病院は通いやすさも大事だけれど、医師との相性も大事。
★自分でも気づかないうちに疲れやストレスを溜め込んでいたので、体と心の両方をケアする必要があった。
★遠回りに感じた休養期間は、次のステップに前向きに進むための活力になった。
自身の体と心と向き合いながら、不妊治療に取り組んできたCさん。その後、転院先の病院で本格的に人工授精を開始します。後編では、転院先の選び方や治療内容、不妊学級への参加で劇的に変化したパートナーの意識、そして、妊娠・出産に至るまでの体験をお聞きします。
取材/ 出川 光 文/日比 佳代子






