長い不妊治療の末に授かった妊娠での流産は、とてもつらい経験だったと思います。その悲しさが残っていて、治療を再開するのが怖いのは自然な気持ちです。この記事では、流産後の心との向き合い方や、不妊治療再開の考え方についてお伝えします。
流産のつらさを一人で抱え込まないで
流産はめずらしいことではなく、妊娠した女性の約15%が経験するといわれています。1)「流産を経験しているのはあなただけじゃないから」と声をかけられることもあるでしょう。頭で理解できても感情が追いつかないのは自然なことです。無理に前向きになろうとする必要はありません。
また、「次頑張ればいいじゃない」と言われることもあります。このように言われることで、かえって「自分だけが苦しんでいる」と感じたり、自分の気持ちが軽く見られたような気がしたりして、さらに孤立感が深まる人も多いのです。
大切なのは、流産のつらさをひとりで抱え込まないこと。そのためにできることをいくつか紹介しましょう。
気持ちを認める
つらいときは「つらい」、悲しいときは「悲しい」と声に出しても構いません。感情を表に出して涙を流すことも、心の整理につながります。
誰かと共有する
本来はパートナーと気持ちを共有できるのが望ましいのですが、男性が悲しみをうまく 表現できないこともあり、かえって「自分だけが苦しい」と感じる女性も少なくありません。
そうしたときは、同じ経験をした人が集まる会に参加するのもひとつの方法です。クリニックや自治体が主催する場を選ぶとよいでしょう。
自分を責めない
流産を経験すると、生活習慣や仕事のせいではないかと自分を責めがちです。
しかし、流産の多くは胎児の染色体異常によるもので、必ずしも母体側に原因があるわけではありません。2)また、胎児の染色体異常も必ずしも卵子が原因とは限らず、最近では精子に原因があることもわかってきています2)。どうか自分を責めすぎないでください。
専門家のサポートを受ける
流産後から数か月経っても「気力がわかない」「涙が止まらない」「生きるのがつらい」といった状態が続くときは、心療内科などの受診も検討してください。不妊治療再開に不安がある場合は、不妊クリニックに相談するのもおすすめです。

不妊治療の再開は早めが安心。でも、不安なら専門家に相談しよう
妊娠に年齢の制限がなければ「心身が整うまでゆっくり」と言えますが、不妊治療では年齢が進むにつれて妊娠の可能性が低くなるため、心の準備が整うまで待つことが難しい 場合もあります。34歳という年齢であればすぐに焦る必要はないものの、少しずつ妊娠率が下がり始める頃です。子どもを望むなら、早めの再開が安心でしょう。
同じクリニックに通うのがつらければ、転院という選択肢も視野に入れてください。転院する場合は、以前の病院に保管されている受精卵について、別の病院への移送または 破棄のどちらかを決める必要がありますので、事前に相談しておきましょう。
治療を再開する過程で、不安になったり気持ちが揺らいだりすることは誰にでもあります。そうしたときは、心理カウンセラーや医師に気持ちを話してみてください。ひとりで抱え込まず、専門家のサポートを受けながら進めることが大切です。
なお、流産が2回続く確率は2~5%、3回続くのは1%程度とされ、繰り返す確率は高くありません1)。原因の多くは染色体異常ですが、複数回続く場合は他の要因が関わっている可能性もあります。
流産を繰り返してしまう場合は、流産した胎児を調べる「流産絨毛染色体検査」(流産した胎児の遺伝情報を調べる検査)や母体側の検査を受けることも検討しましょう。また、「反復する体外受精・胚移植の不成功」(複数回の体外受精や胚移植が不成功に終わっている状態)、「反復する流死産の既往年齢」(過去に2回以上の流産または死産を経験している、母体の年齢)、「女性が高年齢の不妊症(35歳が目安)」(高年齢による妊娠のしづらさ)の条件に合致すれば、胚移植前に「着床前検査(PGT-A)」(受精卵の遺伝情報を事前に検査して、染色体に異常がない受精卵を選別する検査)を行えることもあります。詳しくは通院中のクリニックに相談してください。
焦らなくていい。少しずつ前に進む準備をすすめよう
流産を経験した後に、不妊治療を再開する気持ちになれないのは自然なことです。焦る必要はありませんが、子どもを望むなら少しずつ前に進む準備も必要です。つらい気持ちを一人で抱え込まず、信頼できる人や専門家に相談してみましょう。
参考文献
1)公益社団法人日本産婦人科学会 流産・切迫流産 ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5707/
2)FQ2 男性不妊治療において精子DNA断片化指数(DFI)の測定検査をどのように考えるか In: 江藤正俊, 辻村晃, eds. 2024年版 男性不妊症診療ガイドライン. メディカルビュー社;2024:026-029







