不妊治療の終わりを決めることは、とても苦しく、勇気のいる過程です。中には「やれることはすべてやった」と納得して治療を終えられる人もいますが、そうしたケースはごくわずか。多くの人は「もしかしたら次の移植で妊娠できるかもしれない」と希望を捨てきれず、治療のやめどきがわからなくなっています。だからこそ、一度立ち止まって考えてみませんか。
これまでの治療を整理してみる
まずおすすめしたいのは、「これまでの治療経過を書き出して整理してみること」です。
治療の内容や経過を文字にすることで、冷静に現状を見つめ直すことができます。治療を続ける場合にどんな選択肢があるのか、今後の方向性も考えやすくなります。
もし、長期間同じクリニックで同じ治療を繰り返しているなら、転院を検討してみるのもひとつです。地域によっては転院が難しい場合もありますが、「このまま同じ治療を続けてよいのか」と自分に問いかけてみてください。
また、気になっている検査や治療法があるなら、医師に相談してみましょう。後から「あの治療を試しておけばよかった」と後悔しないためにも、今できる選択肢を一度整理しておくことが大切です。
不妊治療を“いったん休む”こともできる
不妊治療は「やめる」か「続ける」かの二択だけではありません。いったん休む方法や、治療の段階を下げる方法もあります。
30代前半までであれば、完全に治療をやめるのではなく、1〜2年ほど休んで今後を考えるという選択肢もあります1)2)。一方、30代半ば以降でも、妊娠率の低下1)2)を理解したうえで一時的に治療を休み、気持ちを整える時間を取るのもひとつです。
ただし、40歳を超えている場合は注意が必要です。卵巣の働きが低下し、再開後に採卵が難しくなったり、受精卵が育ちにくくなったりする可能性があるからです2)3)。医師とよく相談しながら慎重に判断しましょう。

治療を“ステップダウンする”という選択もある
「治療をやめる」と聞くと、すべてを終わらせるように感じてしまうかもしれません。しかし、体外受精をやめても、人工授精やタイミング法など負担を減らしてステップダウンしながら続けるという選択もあります。
ただし、ステップダウンを検討できるのは、卵管が通っていて、精子の状態が良好な場合に限ります。卵管が詰まっていたり、精子の状態が極端に悪かったりする場合は、自然妊娠や人工授精での妊娠は難しくなります。
もちろん、条件が合えば自己流の妊活を続けることも可能です。体外受精を終えることが、妊活を完全にやめることを意味するわけではありません。
このように、少しずつ治療の段階を下げる『ステップダウン』を取り入れながら、自分の気持ちと向き合う方法もあります。ただし、ステップダウンしても問題ないかどうかは、必ず医師と相談して判断してください。
心の整理には時間がかかる
不妊治療に全力で取り組んできた人にとって、「子どもを持つ」という願いに区切りをつけることは、簡単には受け入れられないものです。気持ちの整理には時間がかかって当然です。焦って答えを出す必要はありません。時間が経つうちに、少しずつ気持ちが落ち着いてくることもあります。
周囲から「もう少し頑張ったら」「そろそろ諦めたら」などと言われたり、根拠のない民間療法や高額なサプリメントをすすめられたりすることもあるかもしれません。 そうした言葉に気持ちがかき乱されることもあるでしょう。でも、耳を傾ける必要はありません。聞き流すことも、自分を守るために大切です。
ただし、ひとりで抱え込む必要もありません。誰かに話を聞いてほしいと感じたときは、クリニックや自治体が主催する当事者の会や、信頼できる心理カウンセラーなどを頼ってみてください。同じ悩みを抱える人や、寄り添ってくれる専門家と話すことで、気持ちが軽くなることもあります。
不妊治療の終わり方に正解はありません。悩み、苦しみ、考え抜いた末に自分で決めたことが、あなたにとっての正解なのです。
参考文献
1)公益社団法人日本産婦人科学会 2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績
https://www.jsog.or.jp/activity/art/2023_JSOG-ART.pdf
2)一般社団法人日本生殖医学会 年齢が不妊・不育症に与える影響
Q22.女性の加齢は不妊症にどんな影響を与えるのですか?
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa22.html
3)鈴 木 葵、 齋藤 未來、奥 田 剛(2021)当院における生殖補助医療の臨床成績
年齢層と卵巣刺激法からみた検討 昭和学士会誌 第81巻 第 4 号〔 342-346 頁,2021 〕
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/81/4/81_342/_pdf







