母乳をやめたい気持ちは甘えではありません
ご出産おめでとうございます。
この2週間、まだ体の回復が十分ではない中で、昼夜を問わず母乳での授乳を続けてこられたこと、本当に大きな努力だったと思います。その頑張りがあったからこそ、母乳をやめてミルクにしたいと思ってしまうご自身に、とまどいや罪悪感があるのかもしれません。ですが、それは決して「甘え」でも「情けないこと」でもありません。
授乳がつらいと感じるのは自然なこと
授乳の痛みが強かったり、赤ちゃんが上手に飲んでくれなかったりすると、「この先これがずっと続くのだろうか……」と不安になってしまいますよね。実際に私のところに相談に来られるお母さんの中にも、「ミルクに切り替えたい」と思っている方は少なくありません。
その理由もさまざまです。母乳だとどのくらい飲めているのかわからず不安に感じたり、分泌が多くて乳腺炎が怖かったり、授乳の間隔が不規則で休めなかったり……。ただ、共通しているのは、心も体も疲れきっているということです。
産後は育児が大変なのではなく、「育児に向き合うお母さん自身が疲れている」から大変に感じることが多いのだと思います。
昔から日本には「床上げ三週間」という言葉があります。出産後21日間は、授乳以外は横になって体を休め、周囲にお世話を任せて過ごす習わしでした。かつては、食事や洗濯はもちろん、赤ちゃんのあやしや寝かしつけまで、家族や地域の人が助けてくれていたのです。けれど今は、核家族や共働きが当たり前になり、産後を十分に休むことが難しい方がとても多いのが現状です。
その中で「母乳を続けるか、ミルクにするか」という問題に直面すると、母乳育児そのものがつらいと感じてしまいがちですが、本当は「サポート不足のなかで一人で頑張りすぎている」ことが背景にあるのかもしれません。

産後ケア施設や家事サポートを利用するのもおすすめ
もし可能であれば、産後ケア施設や訪問サービス、家事サポートを利用してみませんか。ご家族や友人にお願いできるなら、1日でも2日でもいいので、授乳以外の赤ちゃんのお世話や家事をすべて任せてみてください。
その間に、しっかり食事をとり、授乳の合間に横になるだけで、心と体はぐっと回復します。「赤ちゃんに向き合ってみようかな」と思える余裕が少しずつ戻ってくるかもしれません。
また、授乳の痛みは抱き方や姿勢を調整するだけで改善することがよくあります。赤ちゃんのくわえ方を工夫したり、クッションを使ったりと、ちょっとした工夫でお母さんの体の負担は大きく変わります。痛みを我慢せず、ぜひ助産師に相談してケアを受けてみてください。
母乳育児は、始めてからすぐに軌道に乗るわけではありません。多くの場合、産後3〜4週間ほどで、赤ちゃんとお母さんのペースが少しずつ合ってきます。つまり、今はまだその過程の真っ最中ということ。母乳を続けるか、ミルクに切り替えるか、混合にするかどの選択にも間違いはありません。大切なのは、お母さんが「これならやっていけそう」と思える方法を見つけることです。
どうか「母乳をやめたい」と感じる自分を責めずにいてください。その気持ちは、お母さんが弱いからではなく、頑張りすぎているサインだからです。サポートの手を借りながら、自分の心と体を大切にして過ごしてください。
参考:お母さんが利用できるサポートの一例
お母さんが一人で抱え込まないために利用できるサポートをご紹介します。自治体によって内容は異なりますが、例えば以下のような制度やサービスがあります。
- 産後ケア事業:助産師や看護師がいる施設や自宅で、授乳・育児の相談、お母さんの休養などを支援してくれる制度。多くの自治体で、費用の一部を助成してもらえます。
- ファミリー・サポート・センター(ファミサポ):地域の協力会員が、赤ちゃんの一時預かりや上の子のお世話をサポートしてくれる制度。
- 家事・育児ヘルパー派遣:掃除・洗濯・食事の用意などを支援してくれるサービス。民間だけでなく、自治体の子育て支援として利用できる場合もあります。
- 保健センターや助産師訪問:退院後の授乳や体調に関する相談ができます。乳房のケアや授乳姿勢の確認を受けられることもあります。
こういった制度を利用したい場合は、お住まいの地域の保健センターや市区町村の子育て支援窓口に相談してみてください。一人で抱え込まず、こうしたサポートをぜひ活用してくださいね。









