産後に性生活へ気持ちが向かないのはとても自然なこと
出産を経て、体も心も大きく変化した中で、「性生活をどうすればいいのか」ととまどうことはとても自然なことです。
一般的には、体の回復が順調であれば、1か月健診が終わって産後6~8週ごろから再開できると言われています。しかし、これはあくまでも目安です。
実際には、体の回復や、気持ちの準備が整うタイミングは人それぞれ。まだ性生活を再開することに前向きになれなかったり、疲れていて気分が乗らないと感じるのなら、それも今のあなたの自然な状態です。
出産後の女性の体では、「オキシトシン」というホルモンが多く分泌されます。赤ちゃんへの愛情を育むホルモンで、同時に性欲を抑える働きもあるといわれています。
授乳中だけでなく、抱っこをしたり、赤ちゃんを見つめたり、声をかけたりするだけでもオキシトシンは自然に増えます。母乳育児をしていない場合でも同じです。
また、睡眠不足や疲労、会陰の痛みなどが重なると、性生活に向かう気持ちが自然とわきにくくなります。
そのため、性欲がないと感じることはごく普通のことなんです。決してパートナーへの愛情が冷めたという意味ではありません。
今は、愛情の中心が赤ちゃんや日々の暮らしに向きやすい時期。自分を責めずにその気持ちを受け止めてあげてください。
パートナーとの関係は戻るのではなく、新しい形に育つ
性生活は単なる行為ではなく、お互いを思いやり、心を通わせるための大切なコミュニケーションのひとつです。やすらぎやつながり、安心感や快感など、求めるものは人によっても時期によっても異なります。

まずは、自分自身に問いかけてみましょう。
「今の体調や気持ちは、どうだろう」
「どんなふれ合いが心地よく、どんなことは少しつらいだろう」
そして、パートナーにも同じように「どんなふうに感じている?」と聞いてみてください。
正解を見つけるよりも、話し合える関係を育てていくことが、今後のパートナーとの関係をより深めてくれるでしょう。
出産や育児を経て、パートナーとの関係は「失われる」のではなく、新しい形に育っていく時期に入ります。
たとえば、かつてのふれあいが情熱的で親密なスキンシップだとしたら、今は一緒に日々を支え合う仲間として寄り添う関係に変わっているかもしれません。それは、関係性が損なわれたり、距離ができたのではなく、愛のかたちが深まり、質が変わったということなのです。
日常のやさしさを重ねながら、新しい親密さを見つけていく
性のつながりは、形を変えて日常の中にもたくさんあります。
たとえば、疲れているあなたにココアを淹れてくれること。赤ちゃんの抱っこを代わってくれること。そんな何気ない行動の一つひとつが「あなたを大切に思っているよ」というメッセージです。
逆に、あなたから「ありがとう」「うれしい」と言葉で伝えたり、軽いハグをすることも、大切であたたかなスキンシップです。まずは、お互いにやさしさを伝え合う日常をつみ重ねてはどうでしょうか。
産後のパートナーとの関係は、子どもが生まれたことをきっかけに、「恋人」から「家族」へと関係性が育っていく時期でもあります。性生活の再開は、その流れのなかで自然に訪れるものです。
「前のパートナーとの関係に戻らなきゃ」ではなく、「今の私たちに合った、新しいつながり方を見つけよう」という視点で向き合うと、お互いに無理なく、安心して過ごせるようになります。
焦らず、自分たちらしいペースで。
パートナーとの関係は、戻るものではなく、育っていくものです。その変化の中にこそ、自分たちらしいパートナーとの絆が芽生えていくのかもしれません。
参考書籍
・江藤宏美(責任編集)『助産師基礎教育テキスト 2024年版 第6巻 産褥期のケア/新生児期・乳幼児期のケア』日本看護協会出版会、2024
・アンドレア・ロバートソン著『産む力の咲かせ方——出産準備クラスにおけるエンパワーメント』メディカ出版、2004
・NPO法人日本ラクテーションコンサルタント協会編集『母乳育児支援スタンダード 第3版』医学書院、2025
北川眞理子・内山和美編『今日の助産(改訂第4版):マタニティサイクルの助産診断・実践過程』南江堂、2019






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